novel

□君に花束U
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「あっ!ソフィー!元に戻ったの?」
二階から降りてきたソフィーを見て、マルクルは弾むような声をあげた。
その声を聞いておばあちゃんもほっとした顔を見せる。

「うん、昨日ね。ごめんね、心配かけて」「よかったあ〜!昨日帰って来るのが遅かったのはそのせいだったんだね。あーぼく、寝ないで待ってればよかったなあ〜。ハウルさんが解いたの?どうやって?」
「えっ…?えーとそれは…」

そもそも半端魔法はとっくに解けていて、ソフィー自身の『ハウルのキスは子ども相手にしてるのと同じ』という思い込みと、恋に臆病な自分の緊張が生み出した子供の姿であって、ハウルに『恋人のキス』をしてもらったら戻りました、…なんてとても言えない。

「それは僕の愛の力に決まってるじゃないか、マルクル」

いつのまに降りてきたのか、ハウルが後ろからソフィーの肩を抱いてそんなことを言う。
「ちょっ…!ハウル!」
ソフィーが赤くなって抗議するとハウルはいたって真面目に微笑む。
「どうして?ほんとのことだろう?」
「そ…それは…その…」
ハウルはさりげなくソフィーの腰に手を回し、腕の中にすっぽり囲うように抱き寄せる。

「もうーハウルさん!ちゃんと教えてくれたらいいのにっ」
またハウルの冗談と受け取ったのか、マルクルがふくれた。
「まぁだアンタには早いってこったよ。…ソフィー、よかったねえ」
自称『恋も魔法も百戦錬磨』の元魔女は全部を見通したように、でもそれは気付かせずに嬉しそうに言った。
「…おばあちゃんにも心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
ソフィーはおばあちゃんに歩み寄り手を取ってにっこり笑った。

「さて諸君!」
ハウルの声に全員が注目する。
「朝ご飯にしよう…こんな空腹には耐えられない」

全員が爆笑した。



「ソフィー、今日からお店開けるの?」
マルクルが目玉焼きをほおばりながら聞いた。
「そうね…開けたいのはやまやまだけど、お花も少ないし、家の中のこともいろいろやらなくちゃだし、お店を開けるのは明日にしようかな」
「それがいいね。僕も手伝ってあげるよ」
「えっ?ハウルが?」
ハウルはやや不満そうにソフィーを見る。
「どうしてそこで疑問符がつくわけ?そんな意外そうにさ…」
「だって…」
…ハウルに手伝ってもらうとよけいに手間が増えそうで…とは言えない。
それに正直、ハウルがそばにいると、昨夜の今朝で…なんとなく…気恥ずかしい。
今、フォークを握ってるハウルの右手は、つい何時間か前、ソフィーを抱いていた手で…あの手が唇が指が…。
(やだ…私ったら…)
なんだか自分の方がよっぽど変な想像力が働いていて、そんな自分がもっと恥ずかしい。
ほんのりと顔を染めるソフィーをハウルは何も言わずに見つめた。

「ハウルさんはダメですよー。王宮からたっぷり呼び出しの手紙がきてます、ほら。あれでもカルシファーがいくつか燃しちゃったくらいで」
暖炉の横に積み上がった手紙の山を指差したマルクルの明るい声に、ソフィーは我に返った。
ハウルは手紙の山にげんなりと溜め息をつく。
「ほんと、こんな仕事受けるんじゃなかった…」
「でもあなたの力が人の役に立つってことは素敵なことだと思うわ」
ソフィーがすかさずフォローする。
ソフィーがそう言うならと重い腰をあげるハウルだった。


いつものように扉の前でハウルを送り出す。
扉の色を合わせると、ハウルが振り向いてソフィーを抱きすくめた。
「…さっき、何を思い出してたの?ソフィー?」
耳元でこっそりと囁かれる。
『さっき』。ソフィーがちょっと恥ずかしい想像をしてしまってた時。
たちまち顔が赤くなる。
「なっ…べつに何も…」
腕の中であたふたするソフィーにくすりと笑ってハウルは赤くなったソフィーの顔を上向かせた。
「僕もしたい気持ちはやまやまだけど、夜までこれで我慢して?」
「そ…っ!」
んなこと言ってないわと返す言葉はいつもよりずっと長くて深いキスに奪われた。

名残り惜しそうに唇を離すとハウルは満足そうに微笑む。
「じゃあ行ってくるね」
「…うん、いってらっしゃい」

「愛してる」の言葉を残し、ハウルが外出すると、早速ソフィーは家事とお店の準備にかかった。
実は、カラダは少しぎしぎしする…。
ほとんど寝てないからすごく眠いし…。
あくびをかみ殺しながら窓をふいていると、おばあちゃんが揺り椅子から声をかけた。
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