novel
□君に花束T
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あれから…ハウルはすっかり崩壊してしまった城を作り直した。
基本はハウルもソフィーも気に入っていたソフィーの家だが、部屋数をずいぶん増やしてある。
ソフィーやハウルの部屋はもちろん、マルクルの部屋におばあちゃんの部屋、カルシファーのいる暖炉があるリビング兼ダイニング兼キッチンから広がるテラスは庭や花屋のスペースにもつながっている。
ソフィーの作業部屋もその傍らにあり、ソフィーはそこでリースを作ったり、縫い物をしたりしている。
それから何より変わったのは城全体が明るくなり、さらに空へと飛び立ったこと。
ソフィーの作業部屋から見える景色はすっかり変わったが、キラキラした日差しの中で穏やかな時が流れていた。
花屋を開店してほどなく、花屋はソフィーが仕上げる花束やリースが人気を集め、そこそこの繁盛をしている。
最近では花束やリースを買い求める客だけでなく、手持ちの鉢植えの元気がないだの、今年は庭の花が咲かないだのといった「園芸相談」もどきまで持ち込まれるようになった。
もちろんソフィーにはそういう知識はなく、魔法(ソフィーにはいまだあまり自覚はないようだが)で草花に少し「手伝い」を施すのである。
噂が噂を呼ぶのか、あそこの花屋の花は枯れないなどという尾ひれがついて、小さな子供からお年寄りまで客層も広がっていた。
今日は金曜日。
週末は花束を買う客が多い。
休日を前に愛する人へのプレゼントにか、あるいは家族の癒しためか、なににせよ、買って行く人の少し照れたような顔を見るのは嬉しいものだ。
「さきに花束を作っておいた方がいいかしら…」
色とりどりの花を抱えてソフィーは店に続くテラスに出た。
向こうに見える店先ではマルクルがすでに看板を磨いているようだ。
ソフィーとマルクルのちょうど間くらいの日当たりのよいところに出した揺り椅子ではおばあちゃんがうつらうつらとしていた。
いつもの日常の風景にほっとする。
そして、いつもそろそろ…
「ソフィー」
もう、名前を呼ばれることにも、後ろからそっと抱きしめられることにも、その声も腕も唇にさえ、すっかり慣れたはずなのに、ハウルに呼ばれるたび、ただそれだけで、ソフィーの心臓はトクンと高鳴る。
「ハウル、もう行くの?」
「うん、王宮からの呼び出しでね。僕は行きたくないんだけどさ」
ふわり、とソフィーは抱えた花ごと後ろからハウルの腕の中に収められた。
耳元にハウルの声が響く。
知らず緊張…というわけでもなく、ただ高鳴る胸の音をなだめながらソフィーは不満顔のハウルを少し振りかえる。
「仕方ないわよ、お仕事だもの」
「でも今日は早く戻るよ、せっかくの週末だしね。…そうだ、今夜は星の海で夕食にしようか」
「素敵ね。マルクルと準備しておくわ」
「じゃあ行って来るね」
そう言うとハウルはソフィーの頬に小さなキスをして腕を解き出掛けて行った。
そう、小さな…子供におやすみをするようなキス。
それだけでもソフィーはどきどきするけれど、愛されてるとも思うけれど…時々これだけでハウルはいいの?などと思ってしまうこともある。
唇にももちろんキスはするけど…実はいわゆる「両思い」になってから、それ以上の進展はない。
自分でもこと恋愛というものに免疫がないとは思う。初恋だし、ハウルと出会ってから何もかもが初めてで。
他の人に、男の人にドキドキするのも、手をつなぐのも、肩を抱かれるのも、抱きしめられるのも…キスも。
初めてのキスはソフィーからしたというのに、もう何度もキスしてるのに。
ハウルに触れられるたび、つい堅くなっている自分がいて。
レティーなどは「まだキスだけなのぉ?」なんて言うけど…
こんなキスでさえこんなにドキドキするのに、「キス以上」なんて考えられない。
だってだいたい自分がハウルみたいなキレイな人と…あーだめ。私ったらはしたないわ…。
そんなこと…もしかしたらハウルは望んでるわけじゃないのかもしれないし…。
(顔が熱いわ…)
自分だけ変な想像して恥ずかしい、そう考えて、頭から引きはがすようにふるふると頭をふった。