novel

□幸せは向日葵の向こうに
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あの日から、なにかが動き始めていたんだ。


国中でもう何度目になるのか、開戦パレードがあったあの日。

ぼくは港町のパレードを見に行って大満足してた。
やっぱり軍艦はかっこいいなあなんて思ってた、その日の夕方、ぼくの師匠であるハウルさんが、珍しくぼんやりして帰ってきた。

また女の子にほうけてる?

いやでもこんなハウルさん、見たことない。

なんていうか…突然の幸運に戸惑ってる風でもあり、ずっと探してた捜し物を見つけて喜んでる風でもあり、壊れ物をどう扱っていいか迷ってる風でもあり、でも、全部ひっくるめると、この上なく…幸せそう。

「ハウルさん、何かあったんですか?」

尋ねてみても何も言わずに暖炉の前に座って、自分の手の平を見つめてる。
「手、どうかしたんですか?」
答えは返ってこないような気がしていたけど、いつもと違うハウルさんにまた聞いてみた。

ハウルさんは、見つめていた手のひらをそっと握って、遠くを見るような目でカルシファーの炎を見た。
「…マルクル」
まさか答えてくれると思っていなかったから、ぼくは思わず気をつけ!の姿勢で背筋をのばしちゃった。

「…君もいつかわかる時が来るよ。…運命はかくも甘く、かくも突然にその扉を開く」
「?」

ハウルさんの言葉は謎めいていて、そしてその言葉を語るハウルさんの横顔がとてもかっこよくて、ぼくは何も返事ができなかった。
後で思ったことなんだけど、この日ハウルさんは、運命の人に出会ったんだ。

それも突然に。

ハウルさんの言葉がよくわからなくて、ぼくはその場を離れかけた。
ハウルさんはまだカルシファーを見るともなく見つめていた。
そして。

「…見つけた、彼女だ」

そう一言だけつぶやいたのをぼくは聞き逃さなかった。


そしてその2日後。
ぼくはソフィーと出会う。



**********


結婚式を挙げて、まだ少ししかたっていないハウルさんとソフィーは毎日とっても仲がいい。
結婚式の前からずっと仲が良かったけど、結婚して、同じ指輪をして、ちょっとお城の中も変えて、ますます仲がいいと思う。

ハウルさんは城にいるときはずっとソフィーを見ているし、見ているだけじゃ飽き足らず?チャンスさえあればソフィーに触ったり、キスしたりしている。
ソフィーはもう慣れっこなのか、最初のころはちょっと怒ったりもしてたけど、今はされるがままというか、特に嫌がるとか、ダメだしをするとかもなくて、幸せそうにしてる。

二人のことは大好きだから、いいなあって思う。
もしぼくの親が生きてたら、こんな感じだったのかなとか…ちょっと…思う。

あっ、もちろんぼくはずっと二人を観察しているわけじゃなくて、そりゃね、ぼくも紳士のはしくれだから。
らぶらぶタイムかな?って察すると、なにげなく別の部屋に行ったり、ヒンの相手をしたり、見ないようにしてる。
見ちゃうとハウルさんはおかまいなしだけど、ソフィーがとっても恥ずかしそうで、らぶらぶできないみたいだから。
…ぼくもいろいろ大変だ。
でも、すごくすごく毎日が楽しい。
仲良しの二人を見てるのも、二人と家族でいられるのも。

さて。
今日からぼくは「学校」に行くことになった。
ぼくは魔法使いになるからいずれはハウルさんも行った魔法学校に行くんだけど、魔法学校に行く年齢になるまでは、普通の学校に行ったほうがいいって。
文字や計算や世の中のいろんなことを勉強して、友達をたくさん作りなさいって。
ソフィーは自分の結婚式そっちのけで、いろんな手続きをして、いろんな準備をして、学校へ行くことを整えてくれた。

昨日の夜、晩御飯をみんなそろって食べている時もぼくの学校の話になった。
テーブルには二人が並んで座っていて、ぼくはその差し向かい。
横には明々とカルシファーが燃えていて、ヒンがテーブルの下にうずくまってる。
「学校が楽しいところになればうれしいわ。毎日お弁当作るからね」
「ソフィー、僕には?」
「ハウルはいらないでしょ。王宮では食事も出してくださるんでしょう?」
「あんなの、ソフィーの料理に比べたら、砂を食べてるみたいだよ」
「そう言ってくれるのはうれしいけど…でもダメ。お弁当さげて王宮に行くハウルなんて考えられないもの」
ソフィーがそう言うと、ハウルさんが腕を伸ばして、隣に座るソフィーを抱き寄せた。
「…そんな遠まわしに言わないで、素直に言って?…ごはんを食べにうちに戻ってきてくれたほうが嬉しいって」
むむ。らぶらぶタイムか?!
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