文
□ガラス越しの6
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小十郎の後ろ姿を見届けた時、自分が酷いことをしたはずなのに、胸が張り裂けそうに苦しかった。
あんなに苦しくなったのは相手が小十郎だからで、何故相手が小十郎だと苦しくなるのかは、小十郎が好きだから。
もう自分の気持ちに嘘はつけなかった。
だってこれが恋じゃなかったら、こんなに胸は苦しくならない。
「小十郎…」
あれからもう1週間が経っていて、小十郎とは一言も会話を交わしていない。
小十郎の態度に何ら変化はないのだが、俺が小十郎に近づかなかった。
いや、近づけなかった。
母親のことや不良集団から助けてもらったこと、他にもこの短期間で沢山世話になったのに、俺は酷いことをした。
だいたいあの時だって、俺の心配をしてくれていただけじゃないか。
なのに俺は…。
「はぁ…」
ため息をつきながら、今日も重い足取りで学校に向かった。
今日も朝一番に学校に着き、小十郎と出くわさないように遠回りをして教室に向かうも、朝礼の時間になれば当然小十郎はやってきた。
「皆にいい知らせがある」
教卓の前に立った小十郎がそう言うとクラスがざわついたが、俺は全く興味を示さなかった。
そう、次の言葉を聞くまでは。
「怪我で入院していた担任の今川先生が無事に退院された。来週には復帰して学校にいらっしゃるそうだ」
担任が、退院…?
「俺がお前らの担任で居られるのは今週までだが、残りの時間もよろしくな」
周りがざわざわとする中、1人の生徒が尋ねた。
「来週からは片倉先生はこの学校には来ないんですか?」
「ああ。元々この学校の教師じゃないからな。短い間だったが、お前らと過ごせて楽しかったよ」
その言葉が一生の別れの言葉に聞こえて、頭が真っ白になった。