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□お酒の力を借りて
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ものすごく久しぶりに給料が入った、と長谷川が万事屋に訪ねて来た。
奢りだよ、だなんて珍しくも嬉しい言葉に舞い上がり、二つ返事で居酒屋へ。
居酒屋に行く際、神楽と新八にいい身分だ、などと怒られたがそんな事は気にしない。
居酒屋でしこたま呑んで騒いで、フラフラになりながらスナックお登勢の暖簾をくぐる。
口直しとはまた違うのだが、カウンターでお登勢を前にして1人でちびちび呑む事が銀時にとっての締めくくりだった。
「帰らなくていいのかい?」
「あぁ?いーんだよ別に。神楽ももう寝てるしな」
「そうかい。新八はもう帰ったのかい?」
お登勢の言葉に持っていたコップがかすかに震え、中の酒が揺れた。
「…帰った……、と思う」
「なんだい、一気に辛気臭い顔しやがって」
「うるせーよババア…」
ふぅー、と気だるげに煙草の煙を吐き出したお登勢は、自分のコップにも手酌で酒を注ぐ。
「………いつか新八に逃げられても知らないよ」
「なっ!縁起でもねー事言うんじゃねーよ!このクソババア!!」
バコっ
「口を慎みな」
「つっ…スミマセンお登勢さま」
コップを持っていない方の手で銀時を殴ったお登勢は、殊勝なその反応で気分を良くする。
「で?」
「は?」
「新八は?」
「だからぁ、帰ったんじゃねーかって………っいってぇぇぇ!なんなんだよっ!」
また殴られた銀時は今度こそ盛大に抗議する。
「新八はなんで帰ったんだいって聞いてんだよ私は。帰ったか帰ってないかなんて聞いてないね。なんでだい?」
すぱー、と煙を吐き出し威嚇丸出しで聞いてくるお登勢に怯んでしまった。
迫力が違う。
さすがかぶき町の四天王を張るだけはある。
「……まともに給料も払えてないのにいい身分だなって言われた。それに寝る時に神楽を1人にするなって…」
「……ふぅん…」
ふぅー。
お登勢の煙草の煙を吐き出す音だけが寂れた店内に響く。
「……」
「で、お前は帰りづらくてここでグダグダやってんのかい」
「…わりーかよ」
「別に悪かないさ。情けない男だとは思ってるがねぇ」
グイっ、とコップに入った酒を一気に呷る。
コン、とコップをカウンターに置いた。
「……やっぱ情けねーよなー……」
「ここでクダ巻くのはよしとくれよ。それに寝るなら部屋の布団で寝な」
カウンターに突っ伏してグチグチと漏らしてしまう。
わかっているのだ。
新八の言っている事は正論だ。
それに新八が伝えたかった事は給料の事などではないという事も。
『寝る時に神楽ちゃんが1人なのはかわいそうですよ銀さんっ!』
「…はぁぁぁぁぁー……」
「新八が帰ったんだったら行けばいいだろ」
「…どこに?」
「皆まで言わすのかい」
「……はぁぁぁぁ…」
何度ため息をついても、新八が帰った事実は変えようがない。
呑みに行った事実も変えようがない。
「…情けない。もう店は終いだよ」
「えぇっ!?ちょっ、待ってくれよっ」
「ほら、出てった出てった」
首根っこを掴まれて無理矢理立たされ、店を追い出された。
「……」
寒い。
まさに身も心も寒い気がする。
「…」
ここで寝るわけにもいかないので、とりあえず立ち上がり衣服についた土埃を掃う。
「…はぁ…」
ため息ひとつ、頭を掻きながら万事屋の階段を登ろうとしたら。
「あれ、銀さん」
「新八…」
「やっぱり遅いお帰りですね?」
「……」