**words**

□2人っきりで旅行に行こう
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髪の毛を梳いてくれていた手を取り、手のひらに口付ける。
わっ、と驚き手を引っ込めようとする新八の手をぎゅう、と握り込む。

「お、沖田さん…?」

そのまま自分の指と新八の指を絡める。
空いているもう片方の手で新八の手を包み込み、逃がさないようにしてやった。


「はぁ……もっと早くに聞いときゃなぁ……俺も行けたってぇのに…」

「ふふ…。じゃあ今度は僕と沖田さんの2人だけで旅行に行きましょうか」

くすくす、と笑いながら新八はさらりと髪の毛を撫でてくれた。



「え…」


心臓が止まるかと思った。

まさかそんな事を新八から言ってくれるなんて。

「?なんですか??」

「いや…旅行って……」

「あれ、嫌なんですか?」

「いやいやいやいやいや!!!んなわけねぇじゃねぇかぃっ!」


大人しく聞いていられなくて起き上がってしまった。
正座で座ったままの新八に対して、なんだか胡坐もかけずに自分も正座してしまう。

「うん、じゃあ一緒に旅行行きましょう!」


ニコニコ、と新八が笑ってくれる。


その笑顔が可愛くて可愛くて。
でも、自分だけが負けた気分になって悔しくて。

「…………2人っきりじゃねぇと行かねぇ……」


対する自分はなんて可愛げのない男なのだ。

「はいはい、わかってますよ」

呆れたように言いながらも新八は自分を見捨てない。
その事がわかっているから、自分はこうして可愛げの欠片もない男になれるのだ。

新八に愛される自分が誇らしい。



「…そうと決まれば!計画立てねぇとなぁ!」

自分から新八から離れて起き上がったのに、自分達の間に空いた隙間が寂しくなってしまいまた膝に寝転がる。

ごろん、と寝転がり新八の手を握る。


「そうですねぇ。今の時期は寒いからやっぱり温泉とかですかね?」

「新八はもう温泉行くじゃねぇかぃ。どうせなら新八が行った事ねぇとこに行こうぜぃっ」


2人でじゃれ合いながらいずれくるであろう、近い未来の旅行計画を立てる。

(……幸せってこういう事を言うんだろうねぃ)


ふと心に過ぎった、今の自分に一番当てはまる単語は『幸せ』。

愛する者が自分の傍にいる事がこんなにも心が安らぐとは思っていなかった。


「うーん…。じゃあ観光とかですか?…なんか……沖田さんには似合わないですねぇ…」

観光する自分の姿を想像してふふ、と笑う新八を見て笑みが漏れる。


「なんだとコノヤロー。どこの場所が背景になろうともイケメンは困らねぇやっ」

「自分でイケメンって言っちゃうところがダメなところなんですよ、イケメンさん……」


新八に苦笑いをされた。
眼鏡越しではない新八の瞳が無性に見たくなる。

カチャ、と眼鏡を両手で汚さないように壊さないように取る。

新八も自分の突然の行動には慣れているので、静かに目を瞑って眼鏡が取り除かれるのを待っていた。
その様でさえ愛を感じてしまう。


「……新八は眼鏡取ったらイケメンなのにねぃ…。でも…」

「はぁ?」

まさかイケメンなどという言葉が向けられるとは思っていなかった新八は素っ頓狂な声を挙げていた。

「なるべく眼鏡は取んなよ。俺以外の前では、な」

きょと、とした新八が次に言った言葉は、紛う事なき爆弾だった。


「あぁ…なんかそれ…、銀さんにも言われましたよ。なんでですか?」


「………は?ちょっ、待て新八っ、お前ぇ…っ、んな事旦那に言われたのかぃ!?」

「まぁ…僕は眼鏡がないと何にも見えないから外す事ないんですけどね」


へらり、と笑う新八を見て一気に危機感が募る。

(あの旦那…マジじゃねぇかぃっ!)


「新八……」

「はい?」

「…旅行、気をつけて行けよ…!!」

「ありがとうございます!でも大丈夫ですよ、何かあっても銀さんがいますし!」


(その旦那がやべぇんだよっ!)

…なんてそんな事は言ってやらない。
わざわざ新八に、銀時を意識させるような事はしたくないのだ。


そろそろ牽制もしておかなければ。


新八は自分の恋人なのだと。


「…新八、明日の朝にな…」

「明日、ですか?」

「おう。『今度沖田さんと2人で旅行に行くんです』って旦那に言っときなせぇ」
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