**words**

□2人っきりで旅行に行こう
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「沖田さん?」

「……」

「…もーしょうがないじゃないですか。決まった事なんだから」

「……」

「……はぁ…」


洗濯物を畳みながらため息をつき、呆れたような目を自分に向けてくる。

用意してもらった座布団を二つに折り曲げて枕にし、寝転んでいた。

だが途中で俯せになり、座布団に顎を預ける。

(なーんで旅行なんかに行っちまうんでぃ!……俺を置いて……)


「…俺も行きてぇ…」

「だからぁ、4人分しかないんですって。ウチの3人分と姉上の分だけなんですよ」


温泉旅行に行く、と言った新八。

自分と付き合いだしてから新八は旅行など行った事がない。
旅行に行っている間はもちろん会えないのに。

(…なにもあんな嬉しそうな顔しなくたっていーじゃねぇかぃ……)

旅行に行くんです、と言ってきた新八の嬉しそうな顔はそれはもう可愛かった。
だが、こうもあからさまに見せつけられるとへなへなに弱ってしまう。

自分ばかりが新八に会いたいと思っているようで。


「…そもそも!なんでまず俺を誘わねぇんでぃ!」

洗濯物をたたむ手を休めずに、また呆れた目を向けられる。

「沖田さんは仕事があるじゃないですか。そんなの、こっちの都合で旅行に行きましょうよなんて言えないです」

「休みなんてどうにでもならぁ…」

「…って言って、前も土方さんと近藤さんに怒られたんじゃなかったでしたっけ?」

「……」

それを言われるととても苦しい。


以前にもこういう事があり、当日になって新八との約束をキャンセルしてしまった事があるのだ。

土方にどうこう言われる事は何とも思わないが、近藤に言われると弱かった。

曲がりなりにも真選組に籍を置いている身として責任感の無さが云々…、と土方に言われた後に出て来たのが近藤だった。

近藤に困ったような顔をされ、苦笑いを浮かべられる事が一番苦手なのだ。

その場面を思い出し、自然と眉間にしわが寄る。


だが、この旅行は見逃せない。

なんせあの銀時も一緒に行くのだ。

(あんな野郎と新八が2人っきりになったら…!!)

しかも温泉旅行。
あの男と新八が裸の付き合いをするなんて。

想像しただけでガバっと座布団に顔を埋めてしまう。


「……じゃあ新八は行かねぇでくれよ……」

顔を埋めているためにくぐもったように呟いてしまった。
その呟きもしっかりと新八の耳に届いたようで、あっさりと返事されてしまう。

「そんなわけにもいかないですよ。せっかくお登勢さんがたまにはゆっくりしておいでって言ってくれたんだし……」

「……」

「そんなに拗ねる事ないじゃないですか……。お土産買ってきますよ?」

洗濯物をたたみ終えた新八が近くに寄って来た。

「…土産なんかいらねぇや」

ポンポン、と頭を軽く叩かれてついでとばかりに髪の毛を梳かれる。
新八が自分の髪の毛を梳いてくれるこの瞬間が大好きだ。

座布団の枕を退けて、近寄ってくれた新八の膝に頭を乗せた。

「…うーん…。沖田さんはワガママですねぇ…」

髪の毛を梳き続けながら困ったように笑う。
不思議な事に近藤にされる困ったような苦笑いはものすごく苦手なのだが、新八にされるそれは嫌いではない。

むしろ、自分だけを特別に甘やかしてくれているようで気分が良い。


「俺がワガママなんてお前ぇはとっくに知ってんだろぃ。だからそのワガママに付き合って、旅行なんか行かねぇでくれよ…」

冗談のように言っているが、本気も本気。

だが、それに対して新八が頷いてはくれない事もわかっている。

「ダメですって。もう…、せめて旅行の前日じゃなかったらなんとかなったのに。なんで今になって言うんですか?」

「しょうがねぇじゃねぇか!新八が今日言うんだからよぉ!もっと前から知ってたら俺ぁ大反対したぜぃ!」

これでも新八は譲歩してくれているのだろう。
自分の理不尽な言い分に対して、譲って譲って譲りまくってくれている。

「だって旅行が決まってからは沖田さんに会ってなかったんですもん。それこそしょうがないじゃないですか」


相変わらず表情は緩く苦笑いのままの新八に、今度こそ何も言えなくなる。

髪の毛は梳かれたまま。


「…………浮気は厳禁でさぁ…」

「浮気って…。姉上と銀さんと神楽ちゃんしか行かないのに浮気のしようがありませんよ」

ははは、と新八は笑うがこちらは笑い事ではない。


新八の上司である銀時は、新八の事を好いている。
自分が新八に向ける目線と、銀時が新八に向ける目線は同じなのだ。

しかも、新八と一緒に過ごした月日が長いだけに自分が向けるそれよりももっと重い。
新八にかなり執着しているように思う。


自分の恋人がそんな第一級危険人物の男と一緒に働いている、なおかつ新八はその男に心酔していると言っても過言ではない。

日頃、口では天パだのニートだのと新八は文句を言っているが、たまに銀時に対して尊敬の眼差しを送っているところが垣間見えた。


(嫉妬するな、なんて…。それこそ無理な話しだぜぃ)

「……旅行先なんて何が起こるかわかんねぇだろぃ。俺ぁ新八を心配して言ってやってるんでぃ」
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