**words**

□ほんとなら奇跡
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自分と新八は付き合ってはいない。
いわゆるお友達関係だ。

たまに志村家にお邪魔して、彼の作ったご飯を食べて他愛のない会話をして帰る。


いつもその流れだった。


自分は出会った頃から新八の事が好きだったのだが、男同士という事もあり気持ちは秘めていた。
告げる事もないだろうと思っていた。


だが、ほんの気を抜いた瞬間口から言葉が出てしまったのだ。


いつも通り新八の作ったご飯を食べ、食後のお茶なんかをいただいている時にうっかり、新八との未来を想像した。


自分が仕事から帰ってくるとすでにご飯は出来ていて、毎日美味しいごはんが出てくる。
それと同時に自分だけに向けられる優しい笑み。

『お疲れ様でした』と言われて身の回りの世話もしてくれる。
『ケガがなくて良かったです』と微笑まれる。


そんな、考えても仕方のない事を本人を目の前にしてうっかり想像してしまったのだ。

気付けば口から言葉が漏れていた。

『新八、結婚してくれよ』と。


だがそれを誤魔化す事は容易だった。

やばい、まずい、どうしよう、と思って咄嗟に出てきた言葉で全てが解決するはずだった。


『そんな小器用に何でもこなす嫁さんが家に1人くれぇいたらいーよなって話しでぃ』

我ながら最高の言葉だと思った。
だが新八は盛大に怪しい者を見るかのような視線を送ってくる。

『……ダメですよ沖田さん、そんな事言っちゃぁ女性に失礼ですって』


(…お前ぇに言ったつもりだって言ったらビビるだろーねぃ)

内心は複雑な心境だったが、なんとなく咎められている事が雰囲気でわかったので軽く謝る。

元々自分は謝罪はしない性分なのだが、新八に対してだけは違う。

それは好きだからだ。



ははは、と談笑し合ってお暇し、屯所に戻るつもりだった。

だが、その後に新八から衝撃の言葉が核ミサイルの如く自分の心に落とされた。


『僕がもし結婚したら、奥さんの事をすっごくすっごく大事にして家事とか炊事とか手伝っちゃうだろうなぁ…』

だから沖田さんも、もし奥さんが出来たらそんな風に身の回りを世話してくれるだけ、みたいなニュアンスで言っちゃダメですよ?

と照れ笑いを浮かべながら言葉を続けられた。


この新八の言葉で、先程まで自分がうっかり想像していた未来が粉々に砕け散った。

一気に視界が黒く、いや暗くなったような気さえしたのだ。

自分の隣に新八がいないのはものすごく嫌だが、新八の隣に自分以外の人間がいるのは吐き気すらした。

目の前が真っ暗になる。


その後新八とどんな話しをしたかは全然覚えていない。

逃げるように屯所に帰った事だけは覚えている。





カチャカチャ、と食器が鳴る音と水を流す音が聞こえる。
志村家はだいたいこの時刻は決まってその音が響いていた。

その音を立てている人物を、穴が開く程に見つめ続ける。


(…相変わらず器用に動く手だなぁ……)

彼、新八も自分も剣術をしていてるので、まめも出来ているしもちろん手の作りも同じだ。
新八が料理や炊事、洗濯をしている時も同様に思うのだが、自分の手とは随分違う事を実感する。


今新八は食べ終わった食器たちを片しているのだが、食べた張本人は台所のいすに座ってだらりと身体をテーブルに預けていた。



あれから自分は毎日のように新八の家に通っている。

(どんな奴がコイツに近付くかわかんねぇからなぁ…)
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