**words**
□俺も溺れてるんです
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生まれて初めて自分の事を好きになって欲しい人が現れた。
だが、皮肉にもその相手は同性の男。
(ほんと…、神様は僕に対してひどい扱いだよなぁ…)
どこが良い、だとかどこに惚れた、とかわからない内に心を奪われてしまったので自分としてはとてつもなく不本意なのだ。
不本意だが、奪われてしまったものは仕方がない。
特に接点があるわけでも、世間話しをする間柄でもない。
(でも…好きになっちゃったんだよなぁ…)
自分とあの人の唯一と言っていい程の接点と言えば。
「神楽ちゃーん」
「あ、新八っ!」
「もう帰るよー?」
「了解ネ!ふふん、今日のところはこの辺で勘弁してやるアル!」
「…逃げんのかぃチャイナ。調子に乗りやがって…」
「…お前のストレス発散に付き合ってやってるだけアル。調子に乗ってんのはお前ネ……」
「……」
「…神楽ちゃん?先に帰るよ?」
「あ、待つネ新八ー!」
顔を合わせれば乱闘を始める同僚の神楽を通じての接点のみ。
あの人と親しくない間柄と言えども、一応の礼儀として会釈くらいはする。
それに対してあの人は相変わらずの読めない表情でぺこ、と軽く頭を下げる。
(神楽ちゃんが羨ましくないって言ったら嘘になるけど…)
多分、自分はこれでいいのだ。
男同士なんて、禁忌な関係。
それにこれは自分が一方的に想っているだけで、相手からすればいい迷惑だろう。
社会的地位やそれに伴う実力を持っている人だとも思う。
ちなみに言えば顔もかっこいいし、化け物並に強い。
もちろん惚れた欲目が多大に入っていると自覚はしている。
実際、あの人の上司である土方の、評価は厳しい。
特に性格とか。
(相性みたいなものだと思うんだよね)
彼の場合は特に、性格が合うか合わないかで大きく分かれるのだろう。
彼を好く人と嫌悪する人とが。
それに、自分の目から見ていれば土方とあの人は互いを嫌悪してはいるものの、確固たる絆が見え隠れしている。
だが、それは隠れている場合が多い。
(…好きになって欲しい、なーんて贅沢な事は言わないからせめて友達にはなりたいなぁ)
あの人の記憶に残る人間になりたい。
もし、自分が死んだら泣いて欲しいなどと贅沢過ぎる贅沢はもちろん言わない。
せめて、眉間に1つでもしわを寄せてくれたら、きっと自分は満足して逝けるだろう。
(うーん…難しいなぁ……)
はぁ、と色々と考え事をしていたために、勝手にため息が口をついた。
それに神楽は怪訝な顔を返す。
「どうしたネ新八。しんどい?」
自分よりも低い目線で心配気に見上げてくる神楽に心が温かくなる。
「ううん、大丈夫だよ。今月も金欠だなぁって思って…」
「銀ちゃんが働かずに寝てばっかりだからアルっ!」
「あはは、本当だね。僕らも頑張って仕事探さないとっ!なんとかしないと万事屋が潰れちゃうしねっ!!」
ぐっ、と拳を握り締めてニカ、と笑顔を向ける。
それに神楽はニコリと可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「うんっ!明日からまた3人でビラ配りから始めるネー!」
「「おぉー!」」
2人は拳を高く高く上げて、帰路についた。
その晩、入浴を終えて就寝しようと戸締まりをしていた。
道場まで見回って戸締まりをし、部屋に戻ろうとすると、呼び鈴が鳴る。
(こんな時間に来るのって…誰だろ?)
「はーい」
「すいやせーん」
「!!」
(えぇぇ!?こ、この声って沖田さんっ?)
「?…いねぇんですかぃ?おーい眼鏡くーん」
「ぁ…、はいっ今開けます!」
突然の訪問に度肝を抜かれてしまった。
こんな時間に何の用事だろう。
…と言ってもココに真選組の隊士が訪ねてくる理由は唯1つだ。
「夜分遅くにすいやせんねぇ。近藤さん来てませんかぃ?」
こんな間近で顔を見たのは久しぶりだ。
否応なく胸が高鳴ってしまう。
「い、いえ。近藤さんは見てませんけど…。多分姉上の職場に行ってるんじゃないですか?」
高鳴ったついでにどもってしまった。
「…そうですかぃ……」
黙り込んでしまう。
(…あれ、帰らないのかな…?)
いくら好意を寄せている相手と言えども、無言で玄関先に佇まれても困ってしまう。
風呂上がりの身としては、夜風も冷たくなってきた。
「…あの……?」
「ん?」
「いや、沖田さんどうしたのかなって…」
「…あー……」
(なんなんだろ…。何か僕に言いたい事でもあるのかな)
勧めてもいいのだろうか。
「あの…お茶でも飲んで行かれますか?」
「……構わねぇかぃ?」
「っ!…はいっ」
喜色が満面に出てしまっている事は自覚出来たが、舞い上がっているので許して欲しい。
(沖田さんと話しが出来た…!)
とりあえず居間に上がってもらい、お茶の用意をする。
(お茶菓子ってなんかあったかなー……)