**words**

□○○と呼んでくれ
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「僕はもう土方さんと話す事はありません」

「は…、ちょっ…おい!」


ピシャっ、と目の前で閉められたドアが余韻で少し震えている。
ガタガタと外側からドアを開けようとするが、無情にも鍵が掛けられていた。


(新八…)

胸が締め付けられるようだ。

あからさまな拒絶がこんなにも辛いものだなんて思ってもいなかった。

明日また来るか、と踵を返して屯所に戻る。

少しでも新八の顔が見たかった。





「もし土方さんが来ても僕はいないって言って下さい」

銀時も神楽も怪訝な顔をする。

「なんだぁ?お前らケンカでもしたのか?」

「はい」

しれっと答える新八にぎょっとしたのは銀時だった。

「うわー…意外だなー。絶対にお前らはケンカとかしないって思ってたわ」

「うん。あのマヨが土下座でもして謝ってきそうネ…」

「うーん…そうでもないよ?じゃなきゃケンカなんかしないし」

困ったような顔をして笑う新八を見て神楽はニンマリと笑う。

「そのまま別れちゃえヨー。あんなマヨなんかほっとけばいいネ!」

「そーだそーだ別れちまえよー。お前は多串くんなんかにゃもったいねーって」

正面から神楽に抱き付かれ、背後から銀時に抱き付かれて言われる内容に苦笑いをこぼす新八。
大事にされているなぁ、とこんな時に思う事が出来る。

「それもいいかも知れませんね…。まぁとりあえず、今は土方さんの顔も見たくないので徹底的に避けます!」

ごぉぉ、と後ろに炎をつけた新八が2人に協力を要請した。
2人は顔を見合わせてニヤリ、と同じ顔つきで笑う。

「「りょぉかいっ!」」




避けられている。
明らか過ぎる程に避けられている。

「……」

とぼとぼと足取り重く志村家から帰る。

こんなに会えない事が辛いとは本当に思っていなかった。


どうやら、万事屋の連中も新八に加担しているようだ。
あの手この手を使い、土方と新八を会わせないように画策している。

なぜ他人に自分達の問題を干渉されなければならないのか。
土方は苛立っていた。

苛立って煙草の本数も明らかに増えた。

『もー煙草吸いすぎなんですって!僕は土方さんの身体を心配してるんですよ!?』

「……」

いつもなら新八が傍にいて、いつものお決まりの文句を言うはずなのに。

今は傍にいない。




歩くスピードがどんどん遅く、とぼとぼとなってしまう。

後ろからバイクの音が近付いてくるのがわかったが、今の自分にはどうでも良いことだった。


だが、後ろから聞こえてきた声の持ち主はどうでもよくなかった。


「ありがとうございました銀さん」

「いーってことよ。ほら、メットよこせ」

「あ、はい。すいません」

新八は自分がかぶっていたヘルメットを銀時に預ける。


「じゃー帰るから。多串くんに気を付けろよ」


今ならあの白髪天パをためらいなく殺せる。
いつもなら新八が嫌がる、とか悲しむとか考えてしまうのだが。

「ふふ、それ毎回言いますよね銀さん」

「当たり前じゃねーか!アイツの上司は本物のストーカーなんだからアイツもストーカー属性に決まってんだよっ!」


ストーカー属性ってなんだよ、と心の中で言った。
だが、不名誉にも程があるが実際こうして家の前で待っていたりしたのであながち間違いでもない。


「属性ってなんすか。……とりあえずありがとうございました。明日はお休みさせてもらいますね」

「おう。あんましチョロチョロすんなよ?」

「あはは、もー子供じゃないんだから!」

ケラケラと笑いながら、新八は銀時の頭をバシン!と叩く。

2人にしかわからない会話を陰で聞いていてとてつもなく苛立つ。
腹の底から声を出して怒鳴り散らしてやりたい。


「いてーよ!…ったく……じゃー帰るからな」

「はい、お疲れ様でした。ありがとうございます」

ペコと頭を下げて礼をする新八。


「…………何してんだよ。中入れよ」

「は?」

「見ててやるから家ん中に入れって」

「…なんすかそれ。アンタは僕のお父さんですか」

苦笑しながらも少し嬉しそうにしている新八の髪の毛をくしゃり、と銀時は掻き混ぜる。

「おめーの父ちゃんになんてなる気はねーよ。……ほらぁ、んなのどーでもいーから早く入れよ!」

くすくす、と笑いながら新八は戸に手を掛ける。

「はい、じゃあお言葉に甘えて…」

銀時は新八が家の中に入って行く事を確認してから原付を発進させた。





(毎日ああやって送ってもらってんのかアイツ…)

ギリ、と煙草を噛みながら握り締めている手に知らず力が込もる。

(…ストーカーだろうがなんだろうが上等だよ)

だいたい、これはただの恋人同士の痴話喧嘩だと思っているのに。
ストーカーだなどと、かなりの不名誉な言われ様だ。
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