**words**

□俺の話しを聞いてよ
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眼鏡を外して幾分か幼くなった新八の顔が眠そうにとろけている。

自分の腕を枕にして舟を漕ぎ出した新八に笑みがこぼれる。


「新八ぃ、寝るなって」

「んん〜〜おきてますってぇ〜〜…」

明らかに眠そうな声で目をこすりながら新八は言う。
それを見た沖田は笑いをかみ殺し切れずにくく、と笑ってしまった。

「なんでぃ、お前ぇは事が終わったらすぐに寝ちまう薄情な奴かぃ」

「…おっ、沖田さん!起きてます!起きてますからっ!」

顔を真っ赤にして沖田の口を塞ごうと、新八は両の手をわたわたと動かす。


新八のむき出しの肩と腕があらわになり、沖田は知らず喉がなる。
己の肩も腕も、もちろんむき出しになっているのだが。

(…いけねぇいけねぇ)

腕や肩と言わず、沖田と新八は素肌を晒している。
今の季節は秋も終わりに近付く頃。
肌で直接感じる冷たい気温も、素肌を寄せ合っていれば何の苦にもならない。

1つの布団で素肌を寄せ合っている、となればこの2人が今まで何をしていたかは一目瞭然である。

沖田の喉がなる理由もそれに起因する。

(散々さっきまで無理させたってぇのに…)




恋人同士としての付き合いを始めてからの2人は、1つの布団で一緒に眠る事はよくあった。
沖田が無理矢理新八を抱き込み、ぎゅうぎゅうに隙間なくくっついて眠る。

最初の頃こそ新八は恥ずかしいだの暑いだのと文句を言っていたが、沖田の強引さとひた向きさに流されて今に至る。
朝起きた時に飛び込んでくる、美しい男の顔に慣れる事にもまた時間が掛かっていた。


沖田は、新八を抱き込んで眠る癖を自分につけようとしていた。
この温かい塊を懐に抱き込んでいないと眠れないように。
それは母親に温もりを求める子供に似ていた。

ただ沖田の場合、人間の子供ではなく動物の子供、という方が合っている。


沖田が、新八を抱き込んで眠るだけでは満足出来なくなってからもまた大変だった。

若く健全な青年は、愛しい人が自分の目の前で無防備に眠る顔に劣情を抱く。
寝ている時に無意識にすり寄ってくるあどけない顔や、自分にしか見せない穏やかな顔。

色々とたまらなくなってしまい沖田は、直球過ぎる直球さで新八に懇願した。

『抱かせてくれ』

と。

それを言われた新八の狼狽ぶりもすごかった。
もちろん最初の内は全力で拒絶していたし、全力で沖田から逃げていた。

拒絶も逃げも全ては羞恥心からくるものだと沖田もわかっていたので、そのまま新八を泳がせていたのだ。

だが、このまま泳がせておいても色々と自分の身が保たないと気付き、沖田は2度目の懇願をする。

『頼むから逃げないでくれ』

と。

その言葉で新八がむにゃむにゃとほだされ絆されてしまい、今のこの素肌を寄せ合う状態になった。
沖田からすれば念願の、新八からすれば恐れていた、である。



疲れきった身体は、睡眠を必要としていた。
新八のみだが。

新八の肩を暖めるように沖田は撫でる。

「寝ねぇでくれよ。せっかく初めてヤッたってーのに」

「…もうちょっと言い方があると思うんですけど……」

「えっちしちゃった、とかかぃ?」

「…っ!もういいですっ!」

「ははっ、そんなに怒んねぇでくれよ。俺ぁ浮かれてるだけでぃ」

沖田は新八の肩を撫でていた手を背中にまわし、抱き寄せる。
はぁ、と新八はため息をついた。

「確かに沖田さん、なんか浮かれてますよね…」

「当然でぃ。本当の意味でお前ぇが手に入ったからなぁ」

「!……ほんっっとーに恥ずかしい事しか言わないですねぇ!」

「眠気も吹っ飛ぶだろぃ?」

「その代わりに沖田さんを吹っ飛ばしたくなりましたけどねっ!」

「くっくっ、お前ぇになら吹っ飛ばされても構わねぇよ俺ぁ」

心の底から幸せそうに笑う沖田を見て、新八は自分の心が温かくなっていくのがわかった。
沖田は新八の瞼に軽く唇を落とす。

「………沖田さんがドMだなんて僕は知りませんでした…」
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