**words**

□瞳を開ければ君
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ピンポーン。
深夜、志村家の呼び鈴が鳴った。

もちろん、この時間帯の住人は寝ているので呼び鈴には気付かない。

ピンポーン。
再度鳴る。

ピンポンピンポンピンポンピンポーン。
ピンポンピンポンピンポンピンポーン。


呼び鈴を連打されて、起きてしまった新八がむくりと立ち上がり玄関に向かう。

(…くそー、誰だよこんな時間に…)


「はいはい、どちら様ですかー?」

「……」

返事が無い。

(えぇぇ…あれだけ鳴らしておいて帰るとかアリなの!?)

「…もぉぉぉ!どちら様ですか!?」

腹立ち半分に怒鳴りつけるように門を開ける。
そこには、

「え」

「…さみぃ。中に入れてくれ…」

「土方さん!?」

真選組副長である土方がいた。
しかも、壁にもたれて座り込んでいる。

一気に目が覚めてしまった新八は、慌てて抱き起こそうとする。

「あー……」

「ど、どうしたんですか?こんな時間に…。あ、立てますか?」

「むり」

間違いなく酔っている。
ベロベロに酔っ払って訪ねてきたのがわかるくらいに土方は酔っていた。

「そんなベロベロに酔っ払うまでよく呑みますねぇ…。ほら立って下さいよ、中に入りましょう」

土方の腕を肩にまわし、無理矢理立たせて家に入れる。

(どうせこんな状態じゃ屯所には帰れないだろうしなぁ。このまま客間に運ぼう)

客間に連れて行く間、土方は一言もしゃべらずに黙っていた。
新八も特に不思議に思うことなく、黙っていた。

ドサリ、と土方を客間に投げ込み布団を敷こうとする。

「土方さーん?今から布団敷きますんで、ちょっと待ってて下さいねー」

「んー…」

はぁ、と新八はため息をついた。

厄介だな、とまでは言わないが、なぜこの人物が自分の家に訪ねて来たのかが分からない。
訪ねて来た理由が何かあるのだろうが、この状態ではまともにしゃべる事も出来ないだろう。

(我ながら順応力が高すぎて嫌になるなぁ…)

万事屋で働くようになってから、とっさのトラブル等にも対応出来る能力をめきめきと上げていっている新八。
しかも、この手のトラブルは自分の上司である銀髪天パで慣れていた。


「布団敷けましたよ。自分で入れますか?」

「んー……」

はぁ、と何度目かわからないため息をついた新八は、またも土方を抱き起こして布団に入れようとする。

(隊服着たまんまだけどまぁいっか。でも上着くらいは脱がした方がいいかなぁ?)

と、思いながら上着を脱がそうとした。
だが、その手は土方の手によって阻まれる。

「なんすかこの手は…。人がせっかく寝やすいようにと思って脱がしてあげてるのに」

むっとした面持ちで告げる新八を見上げる土方。
酔っている事により、いつもより少しだけ柔らかい目をしている。

「……お前…、ホモなのか…?」


その柔らかい目のまま、酔っ払いは爆弾発言を投下してくれた。

「……名誉棄損で訴えますよ土方さん……」

「そうか…」

(厄介だ!この人厄介だよー!)

「……もういいですか?布団掛けますよ?」

土方に声を掛け、自分もさっさと寝てしまおう、とした時。

「ぅわっ!」

土方に手を引っ張られ、そのまま上に倒れ込んでしまった。

「す、す、すいません土方さん!大丈夫ですか!?」

引っ張られたために倒れ込んでしまったのに、新八が即座に謝罪する。
すぐに起き上がろうとしたが、起き上がれない。
新八の手を掴んでいた土方の手は、いつの間にか腰にまわっていた。
もちろん、新八の腰に。


「あのー…起き上がりたいんですけど…」

「……」

「ちょっと!土方さん!このまま寝ないで下さいよっ!」

「あったけーな…」

「寒いなら毛布持って来ますからっ!ちょっと!うわぁ!布団掛けないで下さいって!」

本当に酔っているのかどうか怪しいと思えるくらいの腕の強さで新八を離さない。

自分の腕の中でぎゃぁぎゃぁとうるさい新八をちらりと見て、構わずに掛け布団を自分の胸元まで引き上げる。
挙げ句の果てにはポンポンと、布団ごしに軽く叩かれた。

「もう寝ろ。な?」

「な?じゃねーよぉぉ!!僕は自分の布団で寝ますって!!」

「……」

「わぁぁぁぁ!お願いだから寝ないで下さいぃぃ!」

土方の意識はなかった。
新八の腰をがっしり締め上げたまま、寝息が聞こえる。

サー、と血の気の引く音が自分でも聞こえた新八だった。

(……なんでだ!何が悲しくて男と一緒の布団で寝なきゃなんないんだよ!)

親切にしたのが失敗だったか、と心底後悔した。

だが、健全な16歳の少年が起き続けていられる時間ではなく、新八も気付けば眠りに落ちていた。





まだ朝というには早い時間に土方は目を覚ました。
腕に重みと違和感を感じ、目が覚めたのだ。

腕に負担が掛かっている原因はすぐにわかった。

「!!!」

目玉が飛び出そうな勢いの土方。

(えぇぇぇぇ…ちょ、俺、どうなってんのぉお!?)

全く覚えていない。
記憶が無い。
まずここはどこだ。
なぜこの少年が自分の腕の中にいるのだ。
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