**words**

□いじめないから近寄って
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(好きな奴には優しくするっつーの…)

「正直な話し、僕と沖田さんって個人的に関わった事がないから…」

そう、少年が言うならば。

「じゃあこれから関わっていきやしょう」

「へ?」

「俺は沖田総悟。歳は18でさぁ。好きなもんは駄菓子。趣味は土方さんの暗殺を考える事」

「え?え?」

自分を知ってもらおう。
少しでも自分と少年の間にある溝を埋めたくて、簡単な自己紹介紛いの事をしてみる。

「他に聞きたい事はねぇかぃ?」

「あ…はい……」

「じゃあ次は新八くんの番ですぜ」

「え……?」

「自己紹介。お互いを知ろう、みたいな?」

きょと、とした表情をしている少年に、沖田は表情にこそ出さないが少し焦っていた。

(しまった……ハズしたか?)

数瞬置いて少年は笑い出した。


「…あははっ、沖田さんおもしろいですねぇ!」

「…そーかぃ?」

「ふふ、じゃあ僕も自己紹介ですね?」

「…おう」

もうそれどころではなかった。
初めて好きになった人が初めて自分に笑いかけてくれた事で頭がいっぱいになったのだ。

「僕は志村新八と言います。歳は16歳で、家は道場をしています。趣味はお通ちゃんです!」

(…お通ちゃん…?)

「…変わった趣味を持ってるんだねぃ」

「お通ちゃんは僕の心の太陽なんですっ!!」

「………そーかぃ」

「あっ、今呆れましたね!?」

「……別に呆れてねぇでさぁ」

(俺の太陽は新八くんでさぁ、なんて言えねぇ!)

自分でも薄ら寒い事を思ってしまったと自覚した。
それくらい今の自分は舞い上がっている。

「嘘でしょ!今ちょっと間があったじゃないですか沖田さん!」

少年が冗談混じりで突っ掛かってくる今は間違いなく幸せだ。

昨日までの自分は味わう事の出来なかった幸せ。

「まぁまぁ。とりあえずこれで俺たちはお互いの事で知らねぇ事が無くなった、と」

「いや、それはどー考えても言い過ぎでしょ!?」

「他に聞きたい事はあるかって聞いたじゃねぇかぃ。ないって言ったのは新八くんだろぃ」

「え、あれってそーいう意味も含まれてたんですか!?」

「当然でぃ」

「えぇぇ!?」

困惑した声を出す少年が可愛い。
今は自分の事のみを考えてくれている少年が愛しい。

「…じゃあこれからお互いを知っていこうじゃねぇかぃ」

「……そうですね。今日から沖田さんは僕の中で『荷物を持ってくれる優しい人』カテゴリに追加されましたし」

クスクス笑いながら言う少年が自分に向けた言葉でこんなにも浮かれる自分がいる。

「そりゃ光栄でぃ。俺ぁ心底優しい人間なんでさぁ」

「どうして沖田さんが言うと嘘くさく聞こえちゃうんでしょうねぇ?」

今日は最高の日だ。
こんなにも自分に笑いかけてくれる。
自然と自分も笑みを浮かべてしまう。


(これからもっともっと間合いを詰めてやる)

「…覚悟しなせぇ」

「え!?なにがですかっ?」

「大丈夫、いじめたりしやせんぜ?」

「……沖田さん、僕の事からかってますね…?」

「とんでもねぇや」

「…とてつもなく怪しいですけど………まぁいっか…」

少年は頑固な部分もあれば、このようにあっさりとした部分も持ち合わせている。


あわよくば。

(あっさり『まぁいっか』で流されて俺のモンになってくれよ…)


願わずにはいられない。






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