**words**

□いじめないから近寄って
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こんなに好きになるなんて思わなかった。
こんなに心を奪われる存在なんて知らなかった。
なぜ自分が特に取り柄も特徴もない、しかも男を。

「新八くん」

「…?えぇ…、お、沖田さん?」

(なんで話しかけるんだよって顔してるのがバレバレでぃ…)

目の前の少年が自分を苦手としている事は沖田はわかっていた。
皮肉にも沖田はそれがわかるようになってしまった。

「よぉ。買い物ですかぃ?」

「はい。沖田さんは巡回ですか?」

「そうでさぁ。荷物重そうですねぃ。持ちやしょうかぃ?」

わかりやすいくらいに困惑の表情を浮かべる少年に苦笑する。

(そんなに俺が苦手かぃ)

「い、いえ、そんな。結構ですよ、沖田さんお仕事中なのに…」

(でも、俺もなりふり構ってられねぇんでぃ)

この少年からも自分と同じ想いで想ってほしくなってしまった。
そのために自分はなりふりなど構っていられない。

「気にしねぇでくだせぇ。俺ぁ困ってる人はほっとけねぇタチなんでぃ」

「!」

少年が持っている荷物を半ば無理矢理ひったくり、さっさと歩き出す。
口実が欲しかった。この少年と一緒に過ごす口実が。

(もしこれが他の奴だったら口実なんていらねぇんだろーなぁ…)

「ほら、さっさと行きやすぜぃ?」

「は、はい!すいません、ありがとうございます…」

自分よりも一歩少し後ろを歩く少年に知らず眉間にしわが寄る。
こんな時でも隣を歩いてはくれないのか。

先日、この少年が万事屋の旦那と買い物をしているところ見掛けたが、それはそれは楽しそうに笑っていた。
隣に並び、荷物を半分ずつ持ちながら帰っていった。
それが当たり前のように。

「……なんで俺の後ろを歩くんで?」

「え!?…いえ、特に深い意味があるわけではないんですが…」

もごもごと最後は聞き取りにくいくらいの声音で話す少年。

(俺ぁコイツに苦手意識を持たれるような事をしたか…?)

この少年は自分と会ってから表情が曇る一方だ。

「…なんもねぇなら隣歩いてくれよ。…部下を引き連れてるみてぇだ」

「すいません…」

(そんな顔が見たいわけじゃないってーのに)

どうしたら自分に笑い掛けてくれるのか皆目検討がつかない。
自分の日頃の行いが悪い、と言われるのならば今ならすべて悔い改める事が出来る。

「…俺ぁアンタに何かしたかぃ?」

「はい?」

「アンタ、俺の事苦手だろぃ?」

「っ…、苦手というかなんというか……、はい。すいません苦手です…」

はぁ、と思わず溜め息をついてしまう。
なんという皮肉。
生まれて初めて好きになった相手に苦手視される自分。
なんという滑稽さ。

「で、俺ぁアンタに苦手って思われるような事をしたかぃ?」

「いいえっ!ただ…沖田さんみたいなタイプの人って僕みたいなタイプの人が嫌いなイメージがあるんですよね…」

「……」

正直に言えば、沖田は少年のようなタイプは嫌いだ。
地味でさえない風貌も、性格も特に印象に残らない。優しい性格はしているだろうが、ただそれだけだ。

だが。

(コイツに限ってそれが感じられねんでさぁ)

「だから…無意識に避けてしまうというか……。簡単に言えばいじめっ子から本能的に逃げるいじめられっ子の心境なんですよね…」

苦笑いしながら言う少年の言葉に絶句してしまった。

(なんだコイツ……かわいすぎる…)

「…別にいじめたりしねぇや。つーか避けてる理由がそれって…」

「す、すいませんっ、失礼な事言ったりしてっ!」

焦ってどもりながら話す少年から目が離せない。
そんな可愛らしい理由で避けていたのか。

(まるでいじめてくれって言ってるみてぇじゃねぇかぃ)

「俺ぁ実は恐ろしいくらいに優しい男なんでぃ」

「え、嘘ですよね」

「半分はマジでさぁ」

「じゃあ半分は嘘なんですね」

「……」
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