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□ちょっとそこの道場へ
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先月の8日、自分の誕生日に自分が一番愛する少年を手に入れた。
手に入れる前は、それはそれは沖田も悩んでいた。
一応、人並み程度の倫理観や道徳観を持ち合わせているつもり(あくまで自分では、の話しだが)の沖田は相手が同性である事に人並みならぬ抵抗を感じていた。
生まれて初めて気になって気になってしょうがない人間が同性。しかも眼鏡。しかも自分を受け入れてくれる見込みが無いに等しい眼鏡。
だが、考えても考えても答えが出ず出口の見えない迷路に迷い込んだ沖田に光明を差したのが、日常から沖田が敬愛して止まない真選組局長の近藤であった。
『最近浮かない顔してどうしたんだ?総悟』
『……いやぁ、俺は考えるのは性に合わねぇってのは自覚してやすがどうしても考えちまうんでさぁ』
『何をだ?』
『…報われない想いってのはどこにいっちまうんですかねぃ近藤さん…』
『報われない想いを抱えてるのか?』
『まぁそんなとこでさぁ』
『はっはっは!何を悩む必要があるんだ総悟!まず俺を見てみろ!俺なんて日常的にお妙さんを愛しているという想いが報われていないだろう!』
『近藤さんと一緒にしないでくだせぇ』
『何気にひどい事を言ってるってわかってるのか?総悟…』
『あ、いっけね。思った事はすぐ口に出ちまう俺の悪い癖でさぁ』
『……うんうん。それでこそ総悟だ!言っちまえばいいんだよ!報われるか報われないかなんてそれはお前に分からないだろ?』
『……』
『少なくとも、その相手に言っちまえばお前はすっきりするだろうが。確かに言っちまったらその相手と元の関係に戻るのは至難の業だ。だが、それを恐れてるんじゃぁお前はまだまだガキだな!』
『……そこがガキなんですかぃ?』
『ああ!ガキだな!いいか総悟。その相手との今の関係に不満を感じているのなら変化を求めろ!』
『変化…』
『その結果が良くも悪くも、どっちに転ぼうがお前にはいい経験になるさ!』
『…そんなモンですかねぃ?』
『そんなモンだぞ!』
『………んん、わかりやした。変化させやす』
『お、すごい自信があるんだなぁ。それでこそ総悟だ!』
『なんか近藤さんの哀れな話しを聞いて俄然やる気が出てきたぜぃ!俺は絶対に手に入れて見せまさぁ!』
『……総悟、俺は喜んでいいのか悲しんでいいのか分からんよ…』
(それにしても…そこまで総悟に想われる娘さんがいるのか…。どんな娘さんなんだろうなぁ?)
『俺の方がうまくいけば志村家側から近藤さんを支援してやれまさぁ!近藤さん、やっぱり外側から攻めるのがラクだと思いやすが、内側からじわじわ攻めていかないとアノ姐さんは多分落ちませんぜ?』
『え、総悟くん…?俺はお前の言ってる意味が半分以上わからないんだけどぉぉ!?』
『そのまんまの意味でさぁ』
と、いう激励(?)の言葉を近藤にもらった事によりやる気になった沖田は、とにかく攻めた。
攻めて攻めて攻めまくった。
自分の誕生日に相手に告白する事も実はこの時に決めていた。
(頑張った自分にご褒美として本人くらいはいただかねぇと)
作戦通り七夕の夜に誘い出す事に成功した沖田は星空の中、車の中で告白をした。
想いが溢れて先走り、勢い余ってキスもしてしまったが、結果としては良好過ぎる良好。
(近藤さん…!やっぱり俺ぁアンタに一生ついて行きやす!!)
浮かれた沖田はその時、近藤への思いも再確認したのであった。
その沖田の愛する少年から直接聞いてはいないが、今月の12日がその愛する人の誕生日らしい。
(なーんで言ってくれねーんでぃ…)
しかも本人の口から聞くのではなく、なぜか山崎の情報から知り得た事だったのでそれもまた気に食わなかった。
自分よりも少し、いや大分、いやすごく控え目な少年は付き合い出して間もない自分に対して遠慮しているように思う。
間違いなく今の沖田は幸せだが、その分を相手に返せているかどうかが分からない。
幸せにしてもらっている分、幸せにしてやりたいと思える初めての相手。
自分なしではいられないようにしてやりたい。
甘えて甘やかせてドロドロに溶かしてやりたい。
(なのに!なんでザキが新八の誕生日を知ってて俺が知らないんでぃ!)
沖田は少し立腹していた。
立腹していたが、少年の誕生日を祝いたいという気持ちがあるのもまた事実。
プレゼントはもう、決まっている。
10日を過ぎて11日になっても少年の様子は変わらないままだった。
沖田は普段通りに、仕事が終わったら万事屋へ迎えに行く、と言っている。
11日夜、万事屋へ迎えに行くと、新八が外の階段で待っていた。
「悪ぃ、遅くなったかぃ?」
「いいえ!毎日ありがとうございます。でもこれも毎日言ってるけど…別に僕は男なんだから家まで送ってもらわなくても大丈夫ですよ?」
「うるせぇなぁ。これも毎日言ってんだろーが。俺が送りたいから送ってるだけでぃ」
「ふふ、ありがとうございます沖田さん」