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□月夜の晩にこんばんは
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後は寝るだけ、という状態で飲むお茶は美味しい。
自宅の縁側で、月を見上げながら飲むお茶もまた風情がある。気がする。
(今日はもう、沖田さん来ないかなぁ)
ぼーっとお茶を飲みながら考える事といえば、先日『お付き合い』をし始めた真選組の沖田のこと。
先日、いきなり告白されてしまい仰天しながらも丁重にお断りしたのだが、
「そんな返事はいりやせん」
の一言で返されてしまったのだ。
かといって、新八も了解の返事が出せるわけもなく。
数十回に及ぶ(執念深い)告白劇は、沖田の粘り勝ち(と新八の諦め)によって『お付き合いをする』という形に収まった。
(一時はどうなることかと思ったけど…)
最初の最初は新八も、あー僕はドMに仕立てあげられるんだろーなぁー…なんて遠い目をしていたが、いざ『お付き合い』が始まってみると、沖田は新八にのみすこぶる優しい。
買い物をして重い物を持っている時にふらりと現れて荷物を持ってくれたり、沖田が非番の時には色々な場所に連れて行ってくれたり。
いつも仕事をサボっている沖田だからこそ出来るワザでもあるが、自分の為にしてくれているとわかれば誰だって嬉しいものがある。
(この前のデートの時にパトカーで迎えに来てくれた時にはさすがにビビったけど!)
色々不安なスタートだった『お付き合い』は、新八が心配していたよりも順調だった。
(それに…毎日会いに来てくれるし)
余程の大捕物がない限り沖田は、毎日仕事が終わってから志村家を訪ねる。
新八の顔を見るだけで帰ったり、一緒にお茶を飲んで他愛ない話しをしたり、と様々だが、今のところ沖田は毎日新八に会いに来ていた。
(今日は忙しいのかもしれないなぁ)
そろそろ自室に戻ろうかと腰を上げかけた時。
「新八くん」
庭から黒い隊服のままの沖田が現れた。
「沖田さん。こんばんは。今までお仕事だったんですか?お疲れ様です」
上げかけた腰をしっかり上げて立ち上がり、沖田と向き合う。
縁側に立つ新八と庭に立つ沖田とでは新八が見下ろす形になるが、沖田が縁側に腰掛けることによって新八も腰を下ろす。
「おう。隊服のまんまで許してくだせぇ」
「とんでもない!お仕事忙しかったんでしょう?」
「忙しいってモンでもないが…ちょっとね」
「そうですか…お疲れ様です。今お茶でも入れますね。…あ、てゆーかごはんは食べました?」
「茶もメシもいらねぇよ。ちょっと膝貸してくれぃ」
正座している新八の膝にゴロンと寝転がり頭を預ける。
すでに新八も慣れたもので、はいどうぞとばかりに膝を用意する。
「少しお疲れですね」
「そうでもねぇよ…」
それきり沖田は黙り込んでしまう。
少し伏し目がちな目元も涼やかで、それだけで綺麗な印象を受けるから不思議だ。
「沖田さん?何かありましたか?」
目元に掛かる前髪を新八の手がさらりと流して梳く。
それに沖田はとうとう目を閉じてしまった。
新八は沖田が口を開くのをゆっくりと待つ。
言葉を選ぶように、濁すようにしてぽつりぽつりと沖田が話し出す。
「……俺を、待っててくれたかぃ…?」
「?」
「俺が、ここに来るのを…新八くんは待っててくれたかぃ?」
沖田の瞳がゆるりと開き、不安気に揺れているのが新八には分かった。
「………あーそういうことですか。」
「そーいうことってのぁどーいう…」
「僕は沖田さんを不安にさせてしまいましたか?」
新八は言葉を遮り、沖田の空いている左手を撫でて握る。
「……不安というか…、半ば無理矢理付き合い始めたようなもんだからなぁ…。俺ばっかりお前ぇの事が好きなことはわかってるんでぃ。でも…」
「でも?」
「やっぱり付き合い出したら…俺の事を好きになって欲しいって思うのは当たり前だろ」
握られている左手で沖田は、新八の手を強く握り返す。
もう片方の新八の手は変わらず沖田の前髪を梳き続けている。
ふいにくすくす、と新八が笑みを零し、それを沖田が見上げる。
「すみません沖田さん。僕、ちゃんと言ってなかったですね」
「?」
「僕はちゃんとアンタの事が好きですよ。こーんな夜遅くまで来てくれるのを待っちゃうくらいに大好きなんです」
「…!」
新八からの思わぬ告白に見る間に頬が赤くなる。耳やら首までが赤くなってしまうのが隠し切れない。
「不安にさせてしまってたんですね。大丈夫ですよ、僕はずっとここで待ってますから」
新八と手を繋いでいないもう片方の手でとうとう顔を隠してしまう。こんな夜でも隠し切れていない耳や首の赤さ。
(あー僕は結構この人の事を好きになってたんだなぁ…)
しみじみと思ってしまう。
「俺ぁ…今が一番幸せでさぁ」
またぽつり、と蚊の鳴くような声で零した沖田に新八の笑みがより深くなる。
「まだまだ!これからどんどん幸せになっていきますよ、沖田さんは!」
「?」
「僕とずっと一緒にいるんですから!もっともっと僕が幸せにします!」
「……!…お前ぇは男前すぎらぁ…!」
終