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□結局これでいい
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志村家に昨夜から泊まりに来ていた俺は、例によって例の如く次の日の朝、つまり本日も仕事に行く。
夜から泊まりに行くってなったらそりゃー恋人同士、夜の営みももちろん期待して行ったさ。
健全な成人男子として、当たり前だろう。
だが、あろうことか新八に拒否されたのだ。
『なぁ、新八…』
『ぇえぇ?…明日の仕事がマジで朝も早いし重労働なんで勘弁して下さいよ。もう寝て下さいって』
『は?』
『だーかーらー。仕事がしんどいっつってんですよっ!ほら、もう寝ますよ!おやすみなさい!』
『お、おい、新八…!』
新八と同じ布団で眠りながら何もせずに眠るという愚行に走ってしまった自分に罵詈雑言を浴びせた。
昔の自分なら考えられねーな。
相手に気に食わねー事があれば即効で別れてたし、夜の生活に困った事もなかったし。
全ては新八と付き合いだしてからだ。
なんでこんなに言う事きかねーんだ新八は!
………と、思いながらうっかり就寝し、こうして朝に目覚めた。
気付けば隣で寝ていた(ヤらしてくれねーくせに一緒の布団で寝るとかどんだけ生殺しされてんだ俺!?)新八がいなかった。
「…新八ー?」
「はーい?」
腕捲りをして洗濯物を干している新八に声を掛ける。
朝の忙しい時間に声掛けんじゃねーよって顔を新八はしているが、そんな事はお構いなしだ。
「朝メシは?」
「これ終わったらすぐに用意しますんで、もうちょっとだけ待って下さい」
「マヨ……」
「マヨネーズも用意してますから!」
「あぁ…わかった」
さすが新八だ。
俺の事をよくわかってるじゃねーか。
パタパタパタ、と部屋の奥に行ってしまった新八を眺める。
「土方さーん?」
「んー?」
「悪いんですけど、こっち来る時にそこの洗濯籠持って来て下さい」
「おう」
よっと、小声で掛け声を掛けて籠を持って行こうとしてハッ、と気付く。
昨夜からの一件でも考えられたが…。
これはもしや新八の尻に敷かれている、のか…?
「…いやいやいや…、まずいだろさすがにそれは…」
ナイナイ。
そんな事、ありえちゃいけねーよ。
真選組の鬼の副長ともあろうこの俺がっ!
たかが16歳の少年の尻に敷かれてるなんてありえちゃいけねー!
洗濯籠を持って行くなんてそんな!
「あ、すいません、ありがとうございます」
「構わねーよ別に」
…い、い、い、一体俺の口はどうなってんだ!?
俺の思ってる事が全ッ然口から出ねーじゃねーか!
「土方さん、ごはん出来てますよ」
「悪いな」
「いいえぇ。どうぞ召し上がれー」
ふふ、と笑いながら召し上がれ、なんて言ってる新八が可愛くてしょうがないと思う俺はそこそこヤバイって自覚はしてる。
だが、このままじゃいけねー。
このまま情けなくもカカア天下(新八の場合はカカアになるのか?)に甘んじる俺ではない。
「……マヨネーズが足りねー…」
「そこにありますよ」
味噌汁を飲みながら新八は指でクイ、とマヨネーズを指した。
「ち、ちげーよ!元々の味付けにマヨネーズが足りねーって言ってんだ」
「はぁ?そんなの僕がいない時にでもして下さいよ。僕は過剰な味付けは好みません」
「……」
「……それに、これ以上マヨを摂取し過ぎるのはさすがの土方さんでもよくないですよ…。僕、心配です…」
なんだこいつ。
可愛すぎるだろこいつ。
「…わりーな。でも俺ぁ好きなモンを過剰に摂取して死ぬんなら本望だぜ」
「なに眠たい事言ってんですか。マヨネーズで死ぬなんてバカらしい」
「……」
あれ?
さっきまでの少しだけ甘い雰囲気はもうどっかいったのか?
「で、今日は屯所で仕事なんですか?」
え、もうマヨネーズの話は終わりなのか?
……まーいーけどよー。
「ん」