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□だって我慢出来なかったんです
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・新八・沖田・山崎⇒1年で同じクラス
・銀時・土方⇒2年で違うクラス
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「俺と志村クンは借り物競争に出まーす」
「え、そうなんですか?」
「はい、じゃーその2人は決定ー」
「え、本当ですかっ!?」
「イエーーイ」
順番に沖田、新八、担任、志村、沖田の順番の発言だった。
再来月に控えた体育会の種目をクラスで決めていた。
やる気のないような担任が生徒達に希望の種目を聞いていると、沖田がやる気マンマンの顔つきで手を挙げたのだ。
それも新八と一緒に。
巻き込まれた新八は未だに何が起こっているのかがよくわかっていない。
とりあえず借り物競争に出なければならない、という事はわかったのだがなぜそれを沖田が決めるのか。
「ちょ、ちょっと沖田さん?僕も借り物競争に出るんですか?」
「え、なんか他に出たいヤツあったのかぃ?」
「いや…特にないんですけど…」
「じゃーいいじゃねぇかぃ。一緒にしようぜ?」
それを言うのはもう少し前ではないのか、と新八は思った。
事後承諾にも程がある、と。
「はぁ…。うん、そうですね。別になんでも良かったし…」
新八は思わずため息混じりに言ってしまった。
「…じゃ、じゃあ新八くんがするんなら俺も借り物競争したいなぁ!」
不自然な程に大きな声を出したのが後ろの席に座っていた山崎退。
「ザキは引っ込んでろぃ」
「えぇ!?」
「はい、山崎も決定ー」
「そんな!先生ひでぇや!」
「ひどいのはお前だろ沖田。ウチのクラスはいじめダメ!絶対!」
「いじめじゃねぇしっ!」
「じゃ、じゃあ3人で仲良くしましょうか!」
「「!」」
教室中が険悪な雰囲気に包み込まれそうになり、慌てた新八が山崎にフォローを入れる。
それを聞いて喜んだ顔をした山崎と対照的な沖田。
沖田は舌打ちでもしそうな顔だった。
「ね?沖田さん?別に借り物競争なんて2人でするもんじゃないんですから…」
「……まぁな。しょうがねぇ…。ザキ、今回だけは許してやるらぁ」
「…!」
沖田の脅しともとれる発言に、青褪める山崎。
それでも山崎は気丈に振る舞い、沖田を無視する。
「が…、頑張ろうね新八くん!」
山崎の中でも譲れない事があるのだ。
「はい!沖田さんも一緒に頑張りましょうね?」
「…おう」
不満気に返事をする沖田に気付かずに、新八は軽くため息をつく。
「……沖田さん」
「…なんでぃ」
「山崎さんと仲良く出来ないんなら僕は借り物競争出ませんよ?」
「…っんな!」
「仲良く、しましょう、ね?」
にっこり。
そう擬音語が聞こえてきそうに新八は笑った。
「……はーい」
それを傍で見ていた山崎も少しだけ、ほんの少しだけ身震いする。
「…新八くんには逆らえないな…」
ぼそり、と山崎が呟いた。
あっという間に体育会。
新八と沖田と山崎が出場する借り物競走は特に練習する事もなく、当日を迎えた。
練習する必要もない競技だろう、と沖田が決めつけたのだ。
実際、新八も山崎も沖田の意見に同意だった。
1学年の新八達は高校に入学してからは初めての体育会とあって、少し興奮していた。
400mリレーが行われ、自分のクラスの第一走者を応援している新八と山崎と、日陰に座っている沖田。
9月の日差しは強い。
しかも日中は照りつける太陽と生徒達の熱気で異常な気温だった。
「あ、沖田さん!そんなトコに座ってないで応援しましょうよ!」
備え付けの給水器で水を飲みに行っていた新八が、日陰にいる沖田を見つける。
「……俺ぁあーゆーのは性に合わねぇんでぃ。それよりも…」
「ぅわ…っ!?」
沖田が新八の腕を引っ張り、自分の隣に無理矢理座らせた。
「ちょっと休憩、しようぜぃ?」
ニヤリ、と至近距離で沖田が笑い、新八は呆れながらもそれに従う。
「……ちょっとだけですよ?…それにしてもここ涼しいですねー」
日差しが厳しい日中にも関わらず、この場所は涼しい風が吹いている。
新八の火照った頬にはちょうど良い。
「穴場みてぇだな。誰も来やしねぇ」
「本当だ…。あ、でももうすぐ借り物競争だから戻らないとダメですよ」
「…借り物競争なんざどうでもいいじゃねぇかぃ」
「はぁ?そもそも沖田さんが出たいって言ったんじゃないっすか」
「ちげぇよ。俺が出たいって言ったのはお前ぇと…」
「……こんなトコで何サボってんだ総悟…」
「……っち……」
沖田を睨みながら現れた男は、新八と沖田よりも1学年上の土方。
土方の顔を見て、ありったけの思いをぶつけるように眉間にしわを寄せる沖田。
「あれ、土方先輩。こんなとこでどうしたんですか?」
「…どうもこうもねーよ。お前らこそ何してんだ」
新八の質問に対して苦虫を噛み潰したような顔で答える土方は、質問をそのまま返す。
「んなの土方さんには関係ねぇでさぁ。さっさとどっか行ってくだせぇ。そしてそのまま死んでくだせぇ」
「最後のはいらねーだろ!……はぁ、おい新八」
「はい?」
「次、借り物だぞ。お前出るんじゃねーのか?」
「え、わっ!やばいっ!ありがとうございます土方さんっ!ほら、沖田さんも行かないと!」
どうやら土方は新八(とついでに沖田)を呼びに来たようだった。
「…なぁんで同じ学年でもクラスでもない奴が新八が出る競技知ってんでぃ」
そこで沖田が唐突に土方に質問を投げ掛ける。
それを聞いた土方は一瞬口ごもった。
「……委員の集まりで知ったんだよ。たまたまだ……。それに……」
アイツもわざわざ借り物に変更してたからな、と心の中で土方は付け加える。
「たまたま、ねぇ…」
「…?……あ、あのそろそろ行かないと借り物……」
土方と沖田の口論を聞きながら、新八は少し焦る。
なぜなら自分と沖田が出る競技がもうすぐに始まろうとしているのだ。
「新八」
「え、はい。なんですか土方さん」
「…顔が赤いが…、少しのぼせたか?」
サラリ、と土方の大きな掌が新八の頬を撫でる。
「…っおい!」
それを間近で見た沖田が酷く激昂し、声を荒げる。
荒げた瞬間に土方の腕を強く引いた。