**words**

□新八くんルート!
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「もう、そんなに拗ねないでよ神楽ちゃん」

「拗ねてないアル」

「それを拗ねてるって言うんだよ…」

「拗ねてないアルッ!」


神楽は新八に背負われ、ブツブツと文句を零す。
その足首は大きく腫れていた。


「僕言ったよね?雨が降った後だから足元滑るよって。気を付けてねって。」


よっ、と軽い掛け声をかけて新八は、神楽を背負い直す。

その際、神楽の腫れた足首に衝撃が響きガツ!と新八を殴った。


「痛いアル!もっと優しく運ぶネ!」

「…………神楽ちゃん…、ここで置いて帰ってもいいんだよ…?」

ジンジン、と殴られた頭を押さえる事も出来ずに新八は神楽を睨む。

「…!」


やりすぎた、と神楽は思った。

そもそもこうなってしまったのは全て自分のせいだ、と神楽は思っている。


遊んでいる途中で足首を捻挫してしまい、一緒に遊んでいた友達に銀時か新八を呼んで来てもらうように頼んだ。

たまたま万事屋には新八しかおらず、それを聞いた新八は慌てて神楽を迎えに来たのだ。


それを思い出して、でも口から出てしまった言葉は元には戻らなくて。
神楽は素直に謝罪が出来ずに、新八の肩口をグ…、と握る。

眉間にしわを寄せ、神楽が黙り込んでしまう。



新八としても、こんな事を言うつもりはなかったのだが、いかんせん殴られた頭が痛む。

神楽の前でいくら年上ぶっていたとしても、新八はまだ16歳の少年なのだ。

だが、ここは年上として意地を張り続ける少女に対して自分が折れなければならない。

心なしか先程よりもしょんぼりしている神楽を見て、新八は苦笑とともにため息をついた。


「……神楽ちゃん?」

「…なに」

「今日の晩御飯、何がいい?」

「……」

「神楽ちゃんが言わなかったら銀さんの好きなヤツにしちゃうよ?」

「………ばか」

「へ?」

「お前は馬鹿アル!私に謝らせもしないでっ!そんなの最低の男のする事ネっ!」


ぎゅうぅぅぅ、と首を絞める勢いでしがみついてくる神楽に、新八はふふ、と笑みを漏らす。


「じゃあ…神楽ちゃん。僕も酷い事言ってごめんね?」

「………私も悪かったアル………」

ぼしょぼしょ、と新八のかろうじて耳に届いた神楽の精一杯の謝罪は新八の胸をほっこりと温かくする。

くすり、と笑った新八はそのままぎゅーっと抱きついてくる神楽を背負い直した。



…その一部始終を、真選組の沖田が驚愕の顔で見ていた。





(…なんだありゃぁ……!)

自分の目が節穴であれば、アレは目の錯覚で済ます事が出来る。

だが、確実にアレは自分の目の前で起きた事件だ。


(新八くん……、もしやチャイナとデキてんじゃねぇだろなぁ!?)

動悸が激しい。
心なしか息も苦しい気がする。


周囲からの視線が痛い。
だがそんな事は気にしていられない。

どうせ自分を見ている周囲の奴らなんぞ、自分が真選組の隊服を着ているから見ているのであろう。

物陰に隠れて息を荒げているところを見られているとは思えない。

例え不審者を見る視線で見られていたとしても、気にする自分でもないし。

それよりも。


(今の密着度合いはハンパなかったよなっ!?)

あの新八が神楽を背負って仲睦まじく微笑み合っている様子は、間違いなく男女のソレだ。

普段自分に戦い(ケンカなんて可愛いものではない)を挑んでくる神楽からは想像も出来ないようなしおらしい様子。

甘えるように新八の首に腕をまわしてきつく抱きつく様子。

全てが男女間のやり取りのソレだった。



新八にしても、普段の冴えない眼鏡からは想像も出来ないような頼もしい顔で神楽に笑い掛けていた。

全てが全て、男女間のやり取りのソレにしか見えなかった。

(ありえねぇ…)


物陰に隠れながら、襲ってくる眩暈に必死に耐える。

クラクラする頭を必死に押さえて耐える。

(…こんなトコでこんな事してる場合じゃねぇやっ!)


万事屋へ足を向けてダッ!と走り出す。

なんとしても、なんとしても阻止しなければ。

(新八くんは俺の事を好きになる予定なんでぃ!)


自分でもよくわからない事を言っている自覚はある。

だが、この想いだけは神楽に負けない自信もあるのだ。





走っていて気付いたが、意外に早く万事屋へ着いてしまった。
自分がいた場所が存外万事屋の近くだったようだ。


早く着いてしまったが、肝心の新八と神楽が帰って来ていない。

なぜなら新八は神楽を背負って帰ってくるため、通常よりも時間を掛けて帰ってくるであろうから。


(…くっそ…!)


仲睦まじく笑い合いながら帰ってくる2人を想像して吐きそうになる。

万事屋を睨むように見上げながら、眉間にしわが寄った。


そう思っていると、身体が勝手に万事屋の階段を駆け上った。

ドアの前に立つと中からはかすかに人の気配がした。

(…旦那か…?)


問答無用にドアを開ける。

幸いにも鍵は掛かっておらず、スルスルと開いた。

これがこれからの自分の背中を押してくれているようで、ほんの少しだけ顔が綻ぶ。
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