**words**
□笑い事じゃないよ
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「よぉ新八くん。ちょっと遠出でもして紅葉でも見に行かねぇかぃ?ここいらで絶景って言われる紅葉スポットを聞き出したんでさぁ!四季を大事にする新八くんの事でぃ、春は花見に夏は向日葵、秋は紅葉に冬は雪ってなモンで……」
「半分くらい言ってる事がわかりません」
「……要するに一緒に出掛けようぜぃってお誘いをしてるんでさあ」
「あ、そうだったんですか。いつですか?」
「え、いつ?」
「いつって…、紅葉見に行くんじゃないんすか?」
今の(一方的な)怒涛のようなやり取りはいつもの事だ。
俺が知る限りでは、最近の沖田くんは異常。
勝手にウチに押しかけて来ては新八を誘い出そうと必死になっている。
ぺらぺらと無駄にまわる口は、新八の前で役に立っているところは見ていない。
正直、最初の口上は余計だろう。
これだから沖田くんは駄目なんだよ。
新八には直球勝負しかないって。
「……ですって銀さん。聞いてます?」
「…んぁ?聞いてるよ。いーんじゃね?」
「そうですか」
「……」
あれ、なんで沖田くん絶望的な顔になってんだ?
あれ、俺の事睨んでない?
瞳孔が開き気味の眼ってキチガイじみてるよ、沖田くーん。
「誘っていただいてありがとうございます。じゃあ当日は僕ら、11時にここで待ってますよ」
ん?
今僕らって言わなかったか?コイツ。
「…お、おい新ぱっつぁんよぉ…」
背筋がゾクゾクする。
睨みながら沖田くんは俺に殺気を飛ばしてきていた。
睨まれてる。
まぁ、嫌な予感はするけど…。
それが的中するってーのはもう世の中の決まり事なのか?
新八がこっちを見てニコリ、と笑った。
「紅葉、皆で行けるなんて楽しみです!」
……そりゃ沖田くんも睨むわな。
そのまま当日になってしまった。
神楽は沖田と出掛けるのなんて死んでもイヤだ!とぬかしやがったので俺と新八と沖田くんの3人で紅葉を見るハメになってしまった。
正直に言おう。
行きたくなんかねーよ。
なんで俺が沖田くんに睨まれながら紅葉なんざ見に行かなきゃなんねーんだ。
「…やっぱさぁ、新八1人で行って来いよ」
「え、でも沖田さんは銀さんも誘ってくれてたんですよ?」
だからそれは勘違いだって!
沖田くんが誘いたかったのはお前1人なんだよっ。
なのにお前が俺と神楽もいいですか?なんて言いやがって…。
「…んなこたねーよ。沖田くんはお前がいればいーんだって」
あながち間違いでもない事を言っておいてやろう。
これくらい手助けしてやってちょうどいーんじゃねーの?沖田くんは。
「は?沖田さんが僕を誘う理由なんて探しても出て来ないですけど」
「……もうちょっと全力で探してやれよ」
「はぁ?」
顔面に?マーク浮かべやがって。
沖田くーん。
俺はなんにも悪くないんだってー。
確かにあの時は特に考えもせずに生返事したよ?
だけどさー、まさかアレがこんな事になるとは思ってもみなかったんだってー。
「新八くーん」
外から沖田くんの呼び声が聞こえる。
迎えに来たな。
「あ、来た。はーい」
「……」
あぁ…、これから楽しくもなんともない3人で行楽に出掛けるなんて…。
なにこれ修行?修行なのこれ。
「待ちやしたかぃ?」
「いいえ!わざわざ迎えに来て下さってありがとうございます」
「い、いやぁ!新八くんのためなら俺ぁなんだって出来るぜぃ!」
「そうですか。じゃーまたなんかあったらよろしくお願いしますね」
「……」
いやいや新八、そこはだな。
そんなアバウトな返事が欲しくて言ったんじゃないと思うよ、沖田くんは。
カクリ、と沖田くんの首が少し下に向いたのがわかった。
それにしても…。
沖田くんはあんなに表情がコロコロ変わる青年だったんだなー。
しかも新八の事に関してのみで一喜一憂しまくってるし。
恋、しちゃったんだろーなー。
(鈍感な)新八に。
そこが不憫なところだよ、沖田くん。
「旦那…、チャイナは来ないようですねぃ?」
「あー…、うん。なんか、ね…」
あ、その目は、じゃーお前も来るんじゃねーよ、な目だよね。
わかる、わかるよその気持ちはマジで。
でも…もう引くに引けないとこまできちゃったんだって!
「旦那は……、行くんですかぃ…?」
「直球勝負だね…」
堂々と俺にそんな事が言えるんなら新八に全て言えよ、と言いたくなる。
ちゃんとさー沖田くんが『新八くんと2人っきりで行きたいんでぃ』とかなんとか言ったらいいのに。
「直球も直球。旦那相手に曲がった言い方はしなくていいでしょう?」
「ん、確かにね」