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□苦労はさせません将来安泰です
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4限目の終了を告げるチャイムが鳴る。


校内に響き渡るチャイムの音とともに、廊下を走る足音が響いた。

ただ1つ、目的を持った足音が真っ直ぐに保健室に向かう。
3年生が授業を受けている棟から保健室の棟は1番遠く、距離がある。


走っている3年生男子は全速力で保健室に駆けていた。


途中、教員に怒られ怒鳴られながらも無視をする。

淡い茶色の髪の毛を揺らしながら、青年になろうとしている少年はシャツの前を豪快に開けていた。


保健室の前に着き、ガラ!とドアを勢いよく開ける。


「センセー!」


そこには首元まできっちりネクタイを締め白衣を羽織った眼鏡の教員がいた。

駆け込んだ少年に気付いた教員は、柔らかい笑顔に変わる。


「沖田さん。相変わらず早いですね」

「当たり前でさぁ。センセーに会いたくてガッコに来てるようなもんでぃ!」

「はは、嬉しいけど学生の本分としてはどうかなぁ?」


苦笑いしながら話す保健室教員の名は志村新八。

対する茶色の髪の毛の少年の名は沖田総悟。
この高校の3年生だ。


実は最近、この教員と生徒が密やかにお付き合いを始めていた。


「俺ぁ学生である前に1人の男なんでぃ」

「逆でしょ。1人の男である前に学生じゃないですか」


呆れたように言う教員は、話しながらも2人分の弁当を用意していた。

教員は料理が上手く、自分の分と少年の分の2人分弁当を作って来ているのだ。


「…ちぇ、恋する男の気持ちがわからねぇセンセーでさぁ……」

拗ねたように話す少年の前にコトリ、と温かいお茶を置く教員がまた、苦笑いをする。


「ふふ、わからないでもないですよ。会いに来てくれて嬉しいって僕も思ってるし」

「…!」



告げられた言葉にパッ、と顔を赤くしたこの少年、実は少し前は俗に言う不良生徒だった。

売られたケンカは必ず買う、売られなくてもわざわざ自分から買いにいくようなケンカ好き。


3年になってからは、授業に出た回数が2回のみだった程のサボリ癖の持ち主でもある。

たまに授業に出たと思えば他の生徒の授業の妨げになるような事ばかりして、教員全てに嫌われながらも高校は退学せずに籍だけおいているようなものだった。


ある日、昼から登校していた時にケンカを売られた少年は、殴られた拍子に額を切ってしまい多量に出血していた。
もちろんその後には完膚無きまでに相手を叩きのめしたのだが。


あまりの出血量にこりゃまずい、と思った少年は普通に登校し校内にあるはずの保健室を目指した。


保健室に着き、適当に手当てをして今日は家に帰ろうと思っていたのだが、そこで出会った眼鏡の教員に一目で恋に落ちてしまった。

男のくせに華奢な印象を持たせる身体つき、優しく困ったように笑う顔、何よりもその性格。

後から聞けば華奢なのは身体つきだけで、幼少の頃から剣道をしていたので腕っぷしには自信があるようだが。


少年の出血量に最初は怯んでいた教員だったが、慣れると迅速に血止め・手当てをしてくれていた。
特に動揺もしていなかった少年は、教員に慰められ落ち着くように言われる。


いや、まず自分が落ち着けよと教員にこそ言いたかった少年だったが、見ている内にどんどんこの教員に惹かれている事に気付く。


少年にとってこの日は、第一印象(外見)ヨシ・性格(気性)ヨシ、のこの教員に心を奪われた記念日となる。



その日の内に告白をし、1度はフラれたが諦めずに執拗に猛アタックし続けていると、とうとうため息をつきながら了承の言葉をくれた。

その日から、2人のお付き合いが始まったのだ。



「美味しいですか?」

「うンめぇっ!もう俺ぁセンセーの弁当食わなきゃ生きていけねぇようになっちまってるぜぃ!」

「大袈裟だなぁ」


くすくす、と笑いながら2人で弁当を食べるこの空間が少年は大好きだった。


価値を見出せなかった学校に登校している理由も全てはこの教員に会うため。

今ではつまらないながらも授業に出て、昼になるとこうしてすっ飛んで来るようになった。

最初は授業には出ずに保健室に来ていただけだったのだが、それはダメです!とピシャリと教員に叱られてから少年は渋々ながら授業には出る事にしたのだ。
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