**words**
□想いは溢れるばかりなり
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「新八?」
寝ているようだった。
洗濯物を取り込んだ後にぽかぽかとした春の陽気に、眠気が襲ったのだろう。
(…無防備だねぃ)
自分ではない誰かがここに来たらどうするのだ。
かすかな嫉妬を込めて眠っている新八を睨む。
だが、その睨みも長くは継続しない。
それは、可愛くて可愛くてそしてかっこいい恋人への愛ゆえに。
眠っている新八の隣に腰掛けた。
久々に仕事が早く終わり、このまま屯所に篭もっているよりも少しでも新八の顔が見たい。
早い時間に始まった仕事が早い時間に終わる、という定刻通りの仕事。
大きな捕り物もなく平穏無事に過ごせた今日に、感謝。
そもそも、感謝の気持ちなど自分は持ち合わせていなかったが、新八と付き合うようになってから思うようになった。
『お疲れ様です。今日も沖田さんにケガがなくて良かった。神様に感謝、ですね』
ふにゃ、と笑いながら言われた新八の言葉に衝撃を受けてから、自分は変わった。
自分は神様なんて信じていない。
だが、新八は心配してくれている。
自分の帰りを待ってくれている。
優しい優しい新八。
自分だけの、恋人。
もちろん、帰りを待つと言っても一緒に暮らしているわけではない。
正直に言えば一緒に暮らしたいとは思っているが、それは自分の仕事上…というよりも新八の姉である妙が許さないだろう。
この可愛い可愛い恋人と片時も離れたくないという思いはとても強いのだが、まだ妙と(色々な意味で)戦う準備が出来ていない。
時期尚早、という単語がぴったりだった。
(…でもそろそろ戦闘準備、しねぇと)
以前、どこかのラジオで流れていた歌が勝手に耳に入ってきた。
『悲しみは半分、喜びは倍』なんて、陳腐で安っぽい言葉だ。
ぼんやり聞いていた歌詞は、自分の心には全く響かないし残らない。
そう思っていたのに。
新八と出会って想いが成就してからは、まんまと陳腐な歌詞のとおりの人生を歩む事になるとは、当の自分が思ってもいなかった。
悲しみを分かち合える相手。
一緒に喜んでくれる相手。
その相手が新八である自分は、きっと世界一の幸せ者だ。
(ずっと俺の傍にいてくれ)
眼鏡を外している新八の頬をさらり、と撫でた。
普段の新八からすれば珍しい程に行儀悪く寝ていた。
草履を履いたまま縁側に足をぶらりとさせ、上半身のみ大の字だ。
小休止とばかりに縁側に軽く腰掛けて、そのままぱたりと眠ってしまったというところだろうか。
その時を想像してくすり、と笑みが零れた。
(起こしてぇような起こしたくねぇような…)
新八の頬を撫で続けている手を、そのまま手まで這わせる。
指を絡めて手を繋いだ。
睡眠の邪魔はしたくはない。
だが、そろそろ起きてくれてもいいのではないか。
(俺を映してくれよ)
その瞳に。
念力が通じたのか、新八が唸り出した。
「…んん…ん?」
「お、起きたかぃ。おはよう」
「……おはようございます?あれ、おきたさん?」
「よっく寝てたねぃ」
「…すいません」
寝転んだままぼんやりと謝罪する新八に笑う。
上体を倒してちゅ、と軽く口付けた。
それをくすぐったそうに受ける新八の可愛らしさに目眩がする。
「眠かったんだろぃ?」
「…はい、なんかあったかくて…」