**words**

□『正義の味方』になりたい
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目の前の2人が繰り広げる会話を聞いていると、イライラし過ぎて胃に穴が開きそうだ。


「沖田さんって意外に手先が器用なんですね」

「意外ってのはどういう意味でぃ。失礼な」

「すいません、つい」


(総悟の野郎…)

歯噛みしてしまう。
いつも吸うはずの煙草は、今は諸事情により吸えなかった。


「……」

「…土方さん?」

「…んあ?」

突然話し掛けられて間抜けな声が出てしまった。


「…気持ちわりぃ野郎でさぁ。新八、そんな奴に近付くんじゃねぇ」

「何言ってんですか沖田さん。わけわかんないっすよ」


沖田の発言は、沖田の本能のままに発言しているので特にわけがわからない事はない。
本気で自分の事をそう思っているのだ。

新八に近付くな、と。

だがそんな事は本人を前にして言われても痛くも痒くもない。


「…うるせー。変に絡んでくるんじゃねーよ」

「沖田さんって捻くれてますよね。性格が顔に表れてますよ」


呆れたように沖田に言葉を向ける新八の辛辣な物言いにフン、と鼻が鳴る。

(可愛い顔して言う事はエゲツないよなコイツ…)


自分がその対象になっていないのでくつくつ、と笑ってしまった。

「ズバッと言いたい事言ってくれるじゃねぇかぃ…」

「当たり前じゃないすか。ちょっと人より顔の作りがいいからってチヤホヤすると思ったら大間違いですよ」

「……」

大笑いしてしまいそうだった。
ざまあみろ、と指を差して笑ってやりたい。

「ほら、土方さんもボーっとしてないでさっさと鶴折って下さいよ」

「お、おう」


心の中で沖田を嘲笑っていたら、自分にも新八の流れ弾が飛んで来た。




以前試みた、真選組のイメージアップを図るためにアイドル寺門通を1日局長に迎えたが、芳しくない結果を迎えた。

それでも懲りずに次の試みを考えた結果、今に至る。

(上の考える事はわかんねー)

この場合、近藤よりも上、という事だ。


言われるがままに保育園に行き真選組の隊士達が1日、園児達と過ごすいわゆる『保父さん』の真似事をする事になったのだった。

果たしてそれが真選組のイメージアップに繋がるのかどうかは不明なのだが。

おかけで今日1日は煙草も満足に吸えやしない。


今の時間は折り紙で鶴を折っていた。




新八は、万事屋への依頼という形で保育園に来ていた。
残りの2人は『ガキの相手なんてしてられるか』などと戯言を言ったらしい。

律儀な新八は1人で保育園で園児達の世話をする依頼をこなしており、そこに真選組が現れたのだ。


最近新八の事を好きだと自覚した自分としては嬉しい限りだったが、新八はそうでもないらしい。

あからさまに嫌な顔をしていた。
しかも、

『げっ』

と声を出して。

新八がそんな声を出した原因は沖田にある。


沖田は新八に構い倒す。
新八が嫌な顔をしても気にせず構い倒す。

あれは沖田なりのわかりやすい好意の表れなのだが、笑いたくなる程に新八には伝わっていない。


そんな自分も新八に好意を寄せているのだが、微塵も気付いてもらえない。

もちろんそれは、沖田程あからさまなものではないので気付いてもらえるはずがないのだが。



基本的に新八は真選組の面子に対しては冷たく厳しい態度だった。
それは沖田のせいだと思っている。

警戒されているのだ。



「もう!そんなにくっつかないで下さいよ!今何月だと思ってんすか!?」

「もう10月かぁ。時が流れるのは早いもんでぃ」

「そんな意味で言ったんじゃないんすよ。どうしたらわかってもらえるんですか?暑いって言ってんです!」


正座して鶴を折っている新八の背後から沖田は覆いかぶさっていた。
新八の肩から両手を伸ばし、ぶらりとさせている。

新八と自分のこめかみがどんどん引き攣っていくのがわかった。

(くっつきすぎだろ…!)


だがここで怒鳴って新八に怒られるのは嫌なので黙々と鶴を折る。


「新八ぃ。もう鶴なんていーじゃねぇかぃ。ほっときゃそこのマヨラが勝手に折るってよ」

「…っな!んなわけねーだろ!」

思わず声が出る。
そこは聞き流せなかった。


「マヨ方さんは黙って鶴でも折っててくだせぇ。俺がノルマでも課してやらぁ」

「なんで俺がお前にノルマ課せられなきゃなんねーんだよっ!」

「……土方さーん。馬に蹴られて死ぬか俺に殺されるかどっちがいいんですかぃ?」

「どっちもごめんだよっ!」


「………お2人とも…、鶴を折る気がないなら今すぐ出て行って下さい…」


「「すまねぇ」」

新八の背後にごぉっ…と燃える蒼い炎が見えて、2人揃って竦み上がってしまった。
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