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□静電気じゃないんだ
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「ご飯くらい食べてますよっ!ひもじい思いなんてしてません!」
質素で簡素で貧乏な暮らしをしているなぁ、とは思っていたが(実際に出された茶も少し薄い)そのような意味で言ったわけではない。
ゆっくりと手に持っていた湯飲みを横に置き、隣に座っている新八の腰を両手でおもむろに掴む。
「……」
細い。
細すぎるだろこれ。
「……ちょっと沖田さん…。うっとおしいんですけど…」
「いーじゃねぇかぃちょっとくらいよぉ」
「何がいーんです?男の僕にセクハラですか?訴えますよ沖田さん」
新八は湯飲みを手に持ったまま、自分の手を払い除ける事なく淡々と文句を言う。
その間も、新八の腰やら背中やら脇腹やらを触っていた。
「……」
どこもかしこも細い。
女のよう、とまではいかなくとも中性的な印象は受ける。
「ちょ…、もういい加減にして下さいよっ」
いい加減堪忍袋の尾が切れたように新八が大きな声を出して沖田の手を退けた。
「!」
その際に触れ合った手は間違いなく少年らしい手だったのだが、何か電気のようなモノを感じた。
ビリビリ、と今も触れた手が痺れているように思う。
「……え、なに黙り込んでんすか?」
「…いや、お前ぇ静電気がすげぇ…」
「静電気ぃ?僕は感じなかったですけどね?」
「いやいや、俺がこんなにビリビリきてんのにお前ぇだけきてねぇわけねぇだろぃ」
「言い掛かりはやめて下さいよ。きてないモンはきてないんですって」
わけがわからない、という顔をしている新八を見て、自分も首を傾げてしまう。
「んー…?」
「気のせいでしょう?」
「うーん……」
腕を組んで文字通り首を傾げた。
自分の手は確かに今もビリリ、と痺れている。
「…沖田さん?」
「…!」
自分の手をぼうっと見続けていたら、新八が下から顔を覗き込んできた。
声も出ない。
かなり驚いてしまった。
「ほんとにどうしたんですか?大丈夫です?」
急に黙り込んだ自分を心配して、新八は眉間にしわを寄せていた。
それよりも何よりも、新八の顔が近い気がする。
手の痺れがより、増した。
と、思っていたらぱっ、と新八が離れた。
「……」
「どっか具合でも悪いんじゃないんすか?もうここにいちゃぁ仕事どころじゃないだろうし、早めに屯所に戻って休んだらどうです?」
「…いや…」
体調が悪いわけではない。
具合が悪いわけでもない。
ただ。
治まらない手の痺れと、先程より自分の耳にまで響いている心臓の音が不思議なだけだ。
ここまで考えて、これはやはり体調不良かもしれないと思い至る。
「いや、ってなんすか。…変な人だなぁ……」
「!」
ふふ、と笑った新八の顔を見て、血液が一気に心臓に流れたかのようにドクドク言い出した。
落ち着け自分。
今、自分の身体に何が起こっている?
半ば混乱しかけた頭を掌で押さえ、髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。
ふ、と新八が横を向いて茶を飲んでいた。
自分が反応を返さないので、新八も諦めたようだ。
片側しか見えない新八の顔を注意深く、だがこっそりと盗み見た。
顔は新八の姉に似ていると思う。
そもそも自分は新八の父も母も知らないので、唯一の肉親であろう姉としか比べようがないのだが。
眼鏡を掛け、地味な少年、といったイメージの新八。