**words**

□静電気じゃないんだ
3ページ/4ページ


だが、よくよく見れば瞳は大きく、笑えば弧を描く。
大きく口を開けて笑う時もあれば、先程のように控えめに笑う事もある。

どれもこれも、新八らしい動作や仕草だと言えた。


だが、一度剣を持てば新八が普段纏っている空気はがらりと変わる。

姉を救うために、単身一流の剣術道場に乗り込んだ。

実際は単身ではなかったが。


泣きながら、姉の幸福を願う顔を見て、なぜだか胸がぎゅうぎゅうと締め付けられた。

その時は、同じく自分も姉を大事に思う身としては放っておけない、と思ったのだが。

顔をぐしゃぐしゃにして泣く新八を慰めたい、と不思議にも思っていたのだ。




つらつらと過去の事を考えているとあれ、と思う事がいくつかあった。


「お茶のおかわりいりますか?」

「!……た、頼む」


どっぷりと自分の思考の中に入り込んでいた時に、いきなり話し掛けられて少し吃ってしまった。

はい、と2つの湯呑みを持って新八は台所に向かう。


「…はぁ……」

思わずため息。


新八が視界から去った事により、先程まで感じていた手の痺れはなくなっていた。


また、思考の淵に浸かる。


自分は新八に対して慈しむ、という感情を向けているように思う。

具体的に慈しむ事が何かもよくわかっていないのだが、多分この感情はそうなのだろう。


なぜなら、ほんの少しだけ。




自分の姉に向ける感情に似ているからだ。


そこに違和感を感じる。


自分の姉は世界一の姉だ。
それこそ間違いはない。


その世界一の姉に向ける感情と、新八に向ける感情とが多少なりとも交差する事はあるのか。

普通に考えて、それは有り得ないはずだった。



だが実際は。


新八の泣き顔や笑顔を見て、慈しむ感情が芽生えている。

新八と友人と呼ばれる間柄になり、他愛のない話しをしている時の新八の表情も、今はっきりと思い出せるのだ。


笑った顔、怒った顔、困った顔、色々と見たが1番心が締め付けられた表情がやはり泣き顔だった。



自分が新八の傍にいてやらないと、その涙を拭ってやらないと、となぜだか強く思った。


その結論に至り、胸の内がなぜかほっこりと温かくなった。

ふ、と口の端が自然と上がる。




この感情は、姉に向けるものと少しだけ似てはいるが、確実に違うもの。



……大事な大事な自分の恋情。





「お待たせしましたー」


新八が熱い茶を持って来てくれた。

「あぁ、ありがとう」

「いいえー」


先程自分の胸の内だけで確認した事を確かめるために、ある事を実験しようと思った。


少しだけ先に起こる事を想像して、なんだか楽しくなってくる。



新八がゆっくりと湯呑みを傾けて茶を飲むところを見た。

新八が湯呑みを置いた事を確認してから、自分側にある新八の手を掴んだ。

「…!!」


確実にビリリと感じる手の痺れ。

じわじわと手から腕、身体、足、果ては脳まで響いてくるような甘い痺れが身体中を満たす。


「…なんすか。またセクハラですか?」


呆れたように言う新八は、もう退けたりせずに自分の好きなようにさせてくれた。



もう、確実だ。



新八の手を握ったまま、伝えた。




「…セクハラじゃねぇや。求愛行為って言ってくれぃ」



「……………はぁ?」




この気持ちは、恋。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ