**words**

□D
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「…新八、気にすんな」

「あ、はい。どうぞ。それと、今日1日よろしくお願い致します。お役に立てるかどうかわかりませんが…」

湯飲みを土方の前に置き、そのまま頭を下げる。

それは、三つ指をついて礼をする妻のように見えた。


…『妻』という単語は明らかに土方と沖田の欲目が入っているせいだが。

(…近藤さんに言ってみるもんだなー…。こんなイイ目を見れるとは思ってなかったぜ…)


「……新八ぃ、俺も茶ぁ飲んだら仕事行くからよぉ。淹れて来てくれよぉ」

懇願するかのような沖田の物言いに土方は驚いたが、新八は別段驚いた様子はない。

(コイツのこんな物言いはいつもの事ってことか…?という事は……)



沖田は新八に対する自分の気持ちに気付いたという事だ。



(コイツら何かあったのか?)

いらぬ勘繰りをしてしまう。


「はぁ…、じゃあ僕は淹れてきますんで。その後絶対仕事行って下さいよ?」

ため息をつきながらも新八は沖田の希望を聞き、茶を淹れるために席を立つ。


いらぬ勘繰りだが、どうしても気になってしまった。


「…総悟、新八と何かあったのか?」

「……何かってぇのは何ですかぃ?」

「…何でもねーよ」

(くそ、言う気はねーってか…)



「お待たせしましたー」

新八が沖田の分の茶を淹れて戻って来た。

またお盆に乗せている湯飲みは1つだ。

(総悟が飲むんだから自分の分も淹れてくりゃーいーのに…)

律儀な奴だな、と土方は苦笑いをこぼした。

そんな真面目なところもとても好ましく思う。


「待ってたぜぃ」

「それ飲んだらさっさと巡回行けよ」

「土方さんみたいに無能な人に言われなくてもわかってまさぁ」

「お前……お前はどうして一言も二言も多いんだよっ!」

「そりゃすいやせん。俺の上司が一言も二言も三言も多い野郎なんでねぇ。俺も似ちまったらしいや」



2人のやり取りを近くで見ていた新八はくすくす、と笑う。

「ん?どーした?」

「いえ、お2人ともやっぱり仲が良いんだなぁと思って…」

「……はぁ!?どこをどー見たらそうなるんでぃ!」

飲んでいた茶を噴き出しそうになった沖田は勢い余って声を荒げる。

「どこって…全部ですけど」

けろり、と答える新八は可愛らしいが、言っている内容は大変可愛らしくない。

土方も沖田も言われた言葉に寒気すら感じているようだった。



「………茶ぁ、ごちそーさん。行ってくらぁ…」

「お気を付けていってきて下さいね」


早々に湯飲みを空にして、沖田は席を立つ。

新八に土方と仲が良い、と言われて本気で気分が悪くなったのだ。

今日はもう、土方の顔を見ていられなかった。


一方土方も多少のダメージを受けたが、沖田程ではない。
それに何より、今日1日新八は自分の傍にいるのだ。

浮かれないわけがない。


「…さて、じゃあ仕事するか。今日1日よろしく頼むぞ」

「はいっ!何でも言って下さいね!」


元気良く答える新八に笑みを返し、土方と新八は書類整理に追われた。
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