海賊日記

□魚人島V
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ヤマトが短剣を片手に、私を縛り上げていたロープを切った。みっともない姿で血が流れる脚を抑えていると、ヤマトは鼻で笑った。これから、無意味な戦いが始まってしまう。

「お前がそんな醜い格好で挑むのに、あたしは武器を使うなんて不公平だろう?だから素手で倒してあげるよ!」
『こんな戦い…あなたにも私にも意味がない…!』
「“意味”だって?誰もそんなこと求めちゃいないさ!あたしはあんたを消したい、ただそれだけのことさァ!」

ヤマトは私をめがけて走ってきた。軋む身体に鞭打って、飛んでくる拳をなんとかかわす。視界の隅には壁に寄りかかってそれを愉しそうに見ているギーモンがいた。


どうすればヤマトを止められる?どうすれば私の心を知ってくれる?どうすれば、ヤマトに伝わる?

「戦いの最中に考え事してるとは、余裕なモンだねェ!」

ガッ・・

不意をつかれて腹部に打撃を受けてしまった。鈍い痛みで息があがる。どうやら腕も脚も動くことができなくなりそうだ。


ヤマトは私を鋭い目で見下ろしながら、小さい声でつぶやき始めた。

「ギーモンは強い男だ。なのになんで、こんな弱い人間の女なんかを気に入るんだい。」

『・・・。』

「ギーモンはいつもそうさ。人間の女海賊を気に入って、」

ヤマトは私の目の前にしゃがみこんだ。


「そのたびに私はそいつらを傷つけ、倒してきた。ギーモンはいつから、人間を好むようになっちまったんだい。」

私の前には、悲しみに似た表情のヤマトがいた。


「お前ら人間が、お前らが…ギーモンを変えちまったんだ!!!」


私の髪をガッと持ち上げ、ヤマトは憎しみに満ちた視線で私を貫いた。



『ヤマト…』
「・・・?」

『私の負けよ。』
「!!馬鹿言ってんじゃないよ!まだあたしは倒しちゃ…」
『私は負けた、あなたに負けたのよ。だから海にでも投げ入れなさい。あなたがギーモンにふさわしい女になったのよ。』
「…ふざけんじゃないよ!!まだだ!」

ヤマトが拳を振り上げた瞬間・・・



『もう許してください!私はヤマトに負けたのよ!どうか、命だけは救ってください!お願い!!』

この空間の外にも聞こえるような、大声で叫んだ。

『(ヤマト、私が負ければあなたはギーモンの女になれる。あなたはすぐ私を海へ落としなさい。)』
「(なにを言って・・・)」
『(これであなたは、もう誰かを傷つけなくて済むじゃない。私は大丈夫、早く海に落としなさい。)』
「(!!…けど、あんたは能力者じゃ…)」


「おい**、俺は幻滅だハー。」

「ギーモン…!ちょっと待っ、」
「俺はお前が強い女だと踏んでここで歓迎してやってたっていうのに、それをここまで来て命乞い。裏切られたハー。」

『あなたが勝手に思ってたことでしょう。私のせいにするなんて、馬鹿げた話よ。』

鼻で笑うと、ギーモンに蹴り飛ばされた。


『ぅぐ・・・あぁ・・・』

「ヤマト、」
「…ギーモン、この女は、」
「消えろ。」

「…え?」
「“縄張り”」


シュルシュルっ・・・

グサッ



「…ぅああああ!」

ヤマトは背中と脇腹から大量の血を流し、その場に倒れこんだ。助けたいけど、ダメージが大きすぎて…!


『ギーモン、何してるのよ!』

「何をしてるだと?決まってんじゃねェかハー。“ごみ”の処理だ。」
『ごみ…?』
「この薄のろ女、俺の周りをうろちょろしやがって、目障りだったんだハー!そのせいで俺は気に入った人間をいつも楽しめずに終わっちまうハー!今までは利用価値があったから置いていたが、もう用無しだハー。」
『あなた…どこまで腐ってるのよ…』
「どれ、お前にも興味がなくなった。お前は悪魔の実の能力者らしいハー。海に落ちて沈めハー。」

ギーモンは再び私を蹴り飛ばして、
私は暗い海に落ちていった。


ヤマトの、私を呼ぶ声が、聞こえた気がした。
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