海賊日記
□非常識人W
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あの日から1週間が経った。大学へは行っていない。あんなことがあった手前、行けるはずなんてない。プールはまだ復興の様子はないらしい。☆☆との会話もぎこちなくなってしまった。
今日もいつものように☆☆の部屋で音楽を聴いていたときだった(少し前に☆☆に操作を教えてもらった)。
purrrr...purrrr...
電伝虫のような音が聞こえる。音のする方へ向かうと、“電話”というものがあった。この棒のようなもので聞く・話すができるらしい。
使い方を思い出しながら、恐る恐るソレを耳にあてた。
『もしもし・・・』
《お、出た出た。》
この声・・・
『銀之助さん?』
《お前までその呼び方・・・銀にしてくれ。》
変わらずに接してくれる銀之助改め銀。
『・・・どうしたの?』
《大学来ねぇのか?》
『・・・今はまだ、かな。』
《チャラ男も寂しがってんぞ。》
『うん・・・ごめん。』
時計を見れば、そろそろ☆☆が帰ってくる時間。
《・・・☆☆はよ、チャラ男のことが好きなんだ。》
『しってるよ・・・。』
《は?聞いたのか?》
『この前、二人の会話聞いちゃった。起き上がろうとしたらタイミング逃しちゃったみたいで・・・』
《☆☆、まだ気にしてるみてぇだな。》
やっぱり・・・。☆☆はまだ私を許してくれてない。
私自身、この状況は耐え難いし、はっきりさせたい。
『銀、』
《ん・・・?》
『私、☆☆と勝負したい。剣道で』
《は!?そんな・・・・いや、いいんじゃないか?》
一度言いかけた言葉を押し殺して賛成してくれた銀。
『☆☆が帰ってきたら、ちゃんと話す。その上で勝負するから。』
《そっか。・・・じゃあ、がんばれよ。》
『ありがとう。銀もがんばれ。』
電話を切り、ドアに向かって声をかける。
『おかえり、☆☆。』
すると静かに入ってきた☆☆。少し気まずそうだ。
『聞こえてたなら話は早いわ。☆☆、私と剣道で勝負して。』
「・・・・プール、もう調整終わったって。」
『本当!?』
なら帰れるかもしれない!
「あとこれ、友達に借りてきた。」
そう言ってテーブルに置かれた袋の中には数冊の本。【ONEPIECE】
『ありがとう!』
「ん。」
短く返事をした☆☆は、コーヒーの入ったマグカップを持って私の向かい側に座った。
「なんで私と**が勝負しなくちゃならないの?」
『・・・この状況をどうにかしたい。それに、☆☆の力を知りたいと思ったから。』
あの反射神経と適切な行動をとった☆☆を見たときから、戦ってみたいと思ってた。
「嘘でしょ?」
『・・・え・・?』
冷たい空気が私を冷やした。
「本当は主将のこと、気になってるんじゃない?私の気持ち知りながら、主将のこと狙ってんじゃないの?」
『・・・☆☆』
「**は可愛いし性格もいいし、私とは真逆だよ。主将だって**の前ではずっとデレデレだもん!」
『☆☆、やめて・・・』
「**も馬鹿だよね!銀之助は**のこと好きなのに、気づいてないフリしちゃってさ。」
え?銀が私を好き・・・?
『☆☆こそ、嘘言わないでよ・・・』
「嘘じゃない!・・・私たち三人はずっと一緒だった。幼馴染で、ずっと仲良しだった!けど、主将も銀之助も、大学では**のことばっかり話して・・・!」
まるで二人が離れていくみたいで嫌なの!
☆☆の目から雫が零れ落ちた。
「子供みたいなのはわかってる。心の中では笑ってるんでしょ?」
『違うよ!』
もう言わないで・・・。
視界が歪む。
「・・・・私、アッチの部屋で寝るね。」
☆☆が暗いベッドの部屋に消えた。
部屋の前で小さく口を開く。
『明日、私と勝負して。午後4時、剣道場で。・・・憎しみでも恨みでも、どんな気持ちで戦ってもいいから。』
部屋の中からは何も聞こえてこない。
静かに床に座り、テーブルの上の本を手に取った。