海賊日記
□死の外科医Y
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分厚いノートを閉じて、深い深呼吸をした。
あの頃の記憶は、まだ微かに残っていた。
『行こう、戦争へ。』
たとえどんな結果になろうと、それが終わったらまた・・・
部屋を出て、ローのいる部屋へ向かった。
数回ノックをしてから、ローの短い返事を聞いて中に入る。
ベッド代わりに使われているソファは、ローの横になった身体を優しく受け止めている。
ローは帽子で顔を隠しているため、本当に起きているのか少し不安になった。
『ロー。私、そろそろ行かなきゃいけない。』
「・・・・行くなと言っても行くんだろ。」
私は無言でそれを肯定した。
『だから、ハートの海賊団全員の記憶を消させて。』
「・・・何を言ってやがる。」
ゆっくりと身体を起こしたロー。不機嫌そうな表情だ。
『戦争で何がどうなるかわからないわ。私のこれまでの任務も水の泡になる可能性だってある。これを機に、ロー達との航海を終わらせようと思う。』
「俺は許可しない。」
『・・・・。』
ローが、怒りを纏った低い声で言う。
甲板にいるはずの船員達の楽しそうな笑い声は全くと言っていいほど聞こえなかった。
「“俺達との航海を終わらせる”?そんなの俺じゃなくても許可する奴なんていねェよ。記憶を消すなんざ、それ以前の話だ。俺たちの記憶は俺たちのモンだ。」
『・・・・。』
「お前だってわかってんだろ。俺たちは仲間だ。」
仲間。
心臓がツキン、小さく痛んだ。
私はもう、独りじゃない。
私には、仲間がいる。
ローは立ち上がり、私の前に立った。見上げれば、距離はわずか2センチ程度。
あまりの近さに驚き、羞恥心が私を支配する。
しかし目は逸らさない。
「お前の帰る場所はここだけだ。」
私が欲しかった言葉。
いつからだろう・・・
ローの細く逞しい腕が私の身体を引き寄せる。
身を任せれば、吐息が髪を揺らし、肌をくすぐる。
貴方の深いその目。低い声。意地悪な笑み。
胸を刺す暖かい言葉。すべてを受け止めてくれる“ロー”という存在。
なにもかもが、
『いとしい・・・』
聞こえるか聞こえないかの小さな声が漏れると、ローの温かい唇が、私のソレと触れ合った。
それだけじゃ足りなくて、
目を瞑って、
あなたと深い“すき”を交わした。
唇を離し、身体をゆっくりと離す。
胸が、ツキン、また痛む。
苦しく嬉しい痛み。
『戻ってきても、文句言わないでね?』
クスリ、と笑って言った。
寂しさを紛らわすための笑み。
「行くなら他の奴らにも言っていけ。」
ローに促されるまま、部屋を後にした。