そしてあなたに出逢った

□時間を置いてきた
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その日は身体が気だるく何もやる気になれなかったのでずっとその倉庫らしきところにいた。

夕食時になっても姿を見せない名無しを心配して探し回っていたドレッドとブッシーにそれを見つけられ、名無しは幹部達の部屋で寝ることにした。


早く休もうと、ろくに食事もとらないままドレッドのベッドを借りて、すぐ眠りについた。






起きると、3人ともまだ眠っているようで、物音を立てないように静かに甲板に出た。

外は真っ白い霧に包まれ遠くが見えない。

メインマストの上から声がしたのでそちらを向くと、船員の1人が「こっちに来いよ!」と陽気に声をかけてきた。
あまり乗り気ではなかったが、ここで断っては相手の気を悪くしてしまうと、笑顔で誘いを受けた。

見張り台へ続くロープの網を慎重に上り、やっとの思いでついた先にはこれまた奇抜な服装の船員がいた。


『ずっと見張りだったの?』

「あァ!深夜から俺が見張りで、朝食時になったら交代だ。おれ達下っ端の役目だからな!」

“下っ端”その言葉がどうも気にかかってしまう。



『…そっか!私も早くそういう仕事任せられるようになりたいな!』


ただ、素直に思ったことを言っただけだったが、船員には皮肉のように聞こえた。


「…お前はこんな雑用するために乗ってるんじゃないだろ?」

船員が私の肩を抱き、片手で私の顎に手を添え顔を近づけてくる。押しのけようとするが両手を掴まれうまく身動きができない。


『ちょっと!』

「お前、頭と一緒の部屋なんだろ?」


『…はい。…ねぇ、近いっ』

「お前、最初見たときは変な女だと思ってたが、こうしてよく見るといい顔してんだな。頭もいい思いしてんだろうなァ?」

何、この人。


「おい、俺にもいい思いさせろよ。」

肩にあった手がすっと脇腹を撫でて下がってくる。

『やめて!何すんの!!』



少し狭い見張り台の中で両手を拘束され、じたばたともがいても無駄な抵抗にしかならない。


「あんまデカイ声だすな。って言ってもまだ誰も起きちゃこないだろうがな。」

骨盤あたりまできた手は衣服の中にもぐろうとする。


『やだ!!』

怖い。怖い怖い怖い。



「おーい!誰かいるかー?」

「!!」

誰かが下から声をかけてきた。


小さく舌打ちした船員は、下に返事を返した。

「そろそろ交代してやるよ!」

「…あァ!!」


船員は私を一度睨み、先に下へ降りてしまった。


「あれ?なんでお前がいんだ?」

交代しにきた船員にそう問われ、「見張りの仕事教えてもらってた」と平然と言うことができた。



船員たちと朝食をとっているとき、襲ってきた船員を探したが姿が見えなかった。キラーに顔色が悪いと言われ少しドキリとしたが、笑顔で大丈夫と答えた。


こんなんで私はくじけない。




洗濯物を干しているとき、どこからか船員が私の陰口を言っているのが聞こえた。
「幹部の人に媚売ってる」とか「夜の相手して優遇されてる」とか、どれも空虚なものばかりだった。


それでも、私は気にしなかった。
誠意を見せれば、いずれみんなも認めてくれると信じることにした。



そうすれば、いずれ仲間というべき信頼関係が築けるのだと、信じることをやめなかった。




悲劇のヒロインなんて
願い下げよ!!

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