そしてあなたに出逢った
□海を教えて
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「メインマストの帆をたため!」
「面舵いっぱい!」
「でかい波がくるぞ!」
『・・・。』
呆然と窓から甲板を見つめる私。
甲板には雨が強く打ちつけ、船員達は皆甲板を慌しく走り回っている。空は先程までの青が消え、灰色の雲がこの船の上を覆いつくしている。遠い遠い東の空は晴れてるのに。
「おい馬鹿女!」
荒い声がドアの向こうで私のことを呼んでいる。
っていうか、私“馬鹿女”じゃないし!!
『なんですか船長!』
「お前は使えねェから絶対ェに外に出るな!いいな!」
『使えないの知っててここにいるんですから!』
そう返せば声の主はどこかへ去っていった。
窓からその背中を見送る。
キッドはいたって普通の顔してた。キラーも雰囲気だけならいつも通り。
ってか、船長と幹部以外は皆慌ててるっつうの!なんでキッド達は普通の顔してんの!なに落ち着いてんの!ってか仕事してんの?!
私が一人でこの船の船長と幹部の動きを観察していると、あっという間に嵐は去っていった。
太陽は数十分前よりも眩しくなっている。
おそるおそる、船長室の外に出た。
船は水浸し、何かの樽は転がって破損してる物もある。波が船の上まできたのだろう、海の強いにおいがした。
「馬鹿女」
『だから、馬鹿女じゃないっつうの!』
「いいから掃除しろ。船が腐る。」
『は?』
船員たちは嵐の後でみんなびしょ濡れ。上着を脱いで、太陽に照らされながらデッキブラシで甲板を磨いている。
「なにしてやがる。さっさと行け、雑用。」
ドン、と背中を押され、近くにいた船員からデッキブラシを渡された。
振り向くと、悪魔の姿はなかった。
『はいはい。身をおかせてもらってる身分ですからね、ご奉仕いたしますよ、船長さん。』
「おい名無し!こっち手伝ってくれ!」
『はーい!』
船員の一人に呼ばれ、船尾の方を磨く。
『ねェ、なんで今、船の掃除するの?雨降ってたからそれで汚れなんて流されるんじゃないの?』
「馬鹿だなァ。わかるだろ?海水が船の上にまで上がってきたのが。」
『うん。』
「そのままにしておくとどうなる?」
『海くさくなる。』
「ハハハッ!いや、そうだけどよォ。違うんだ。放っておくと船が腐る。」
船が腐る。さっきキッドが言ってたことと同じ。
『その“船が腐る”ってどういうこと?』
「なんだァ?船のことなんにもわかってねェのか?いいか、船は木でできてる。木は海水に触れて・・・・」
数分、海水と船の関係について説明された。
『・・・じゃあ、髪が海水とか潮風に触れると痛むっていうのと同じ?』
何回も同じ説明してくれてたけど、やっぱりこの解釈しかできない。
「あァ、もういいよそれで。」
『へェー!』
なんか、船っておもしろいかも。
「よし、そろそろ終わるか。他も終わるころだろう。」
『お疲れ様!』
「あァ、おつかれ。」
『あ!ねェ、この船の航海士?って誰?』
「航海士ならドレッドだ。どうした?」
『(ドレッドだったの!?意外だな。)ううん!なんでもない。ありがとう!』
ドレッドを探すべく、船内を探し回ることにした。