奇術師と私
□奇術師の不在
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「じゃ、行ってくるよ」
目の前で軽く手を振る奇術師、基 ヒソカさん。
今日から仕事でしばらく帰って来れないんだと言う。
「そんなカオしないで。なるべく早く帰ってくるから◆」
目の前で、落ち込んだ様子のエミの頭を撫でると、ふてくされたみたいに拗ねてしまった。
『…気をつけてくださいね』
上目遣いでボクを見上げる様は、まだ納得がしきれていないって表情をしている。
「何かあったら連絡するから大丈夫だよ★」
にっこりと笑えば、先程よりは落ち着いた笑顔が返ってきた。
「じゃあね」
手を軽く振り、ボクは家を出た。
この時、ちょっとだけでも忠告をしとけば良かったと後悔をすることになる。
悪い奴には気を付けろと―……
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『行っちゃった…』
ヒソカさんが出かけたのを見計らい、私はしぶしぶ家に戻った。
この家に来てから、一週間ぐらいは経ったと思う。
まだ、この世界のことは解っておらず
言葉は同じだが書き物は全然できない。
この世界には、まだまだ私の知らない物がたくさんある。
知識も豊富ではなく、ヒソカさんのおかげで何とかやっていけるぐらいだ。
でも、そんなヒソカさんは
元は紙の上の人物。
こう思ったらダメなんだけど、実際はちゃんと存在していて動いている。
私と変わらない、人間として。
『大好きな……んだよなぁ』
ぽつりと、呟いた。
本の中の彼に憧れて、大好きだったんだ。
まさかその彼に会って、ましてや一緒に居るだなんて考えてもみなかった。
『………ちょっと出掛けてみよう』
せっかく、この世界に来たんだ。
たとえ帰れなくたって、後悔しないように今を生きよう。
『(ゴンくんやキルアに会えたらいいな)』
新たな期待と出会いを胸に抱え、エミは街へと赴くのであった。