頂き物

□FrOm梨々子
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「あゆみー」

「んー?」

「好き」

「……は?」






*"好き"と"スキ"*





夏休みの暑い暑いある日。
空は青すぎるほど青くて、雲は一切ない。いわば快晴。
この晴れ渡った空の下、運動でもしたら楽しいのに、あたしは文化祭の準備のため教室で黙々と作業をしていた。

幸い、晴一も一緒に作業してくれているから退屈はしないけれど。

ミーンミーンと煩く鳴く蝉の声と、グラウンドで練習している部活のかけ声などが聞こえてくる。

よく頑張ってるなあ、だなんて考えつつ作業を進めていると冒頭の会話になった。


「す…好きってライクでしょ?うん、あたしも好きだよー」

「えー?わしはラブよ?」


自分なりに理解して、自分なりに一生懸命頑張って返したが、晴一の答えはあたしの予想を遥かに超えたもので。
俯いていた顔をちらっと上げるとにこにこ笑ってあたしを見ている晴一がいる。


なんだ?冗談?


混乱してきた頭を必死で動かすがどうもわからない。
とりあえずあたしは晴一の冗談だと思っていつも通り肩を軽く叩く真似をした。


「な…なに言ってるの?冗談?ドッキリ?あたしをからかってる?」


そう言いながら軽く振り降ろした右手を、晴一の左手が掴んだ。
ぎゅっと掴まれて、あたしの動きが止まる。
それと同時に晴一のにこにこしていた顔が真剣なものになった。


「冗談なんて言うとらん。好きじゃ、あゆみ。ほんまに好きなんじゃけど」


特徴のある薄い唇から出てきた、あたしに対する"愛の言葉"はあたしを真っ赤にさせるには十分すぎるものだった。


好き?


あたしのことを、晴一が?


どうしよう、どうしよう。
すごく嬉しい。すごく愛しい。
なんでなんだろう?

一回逸した目線をちら、と戻すと晴一はまだあたしを見つめている。その視線がなんとも言えなくてあたしはまた俯いた。
すると、掴まれていた手をすっと放された。
晴一の温かさが消え、すごく淋しい気分になる。


「は…」

「ごめん!今のうそじゃけぇ!忘れて!」


言葉を遮られた上、晴一の大声にびっくりしたあたしは晴一を見つめる。
そこにはまたにこにこした笑顔があったが、あたしには泣くのを我慢しているようにしか見えない。
あたしは晴一の左手にそっと触れた。


「あゆみ…?」

「あ…あたし、まだわかんないけど…多分、あたしも晴一のこと、好き。だから、忘れるなんて出来ないよ…」


泣きそうになるのを必死で堪え、晴一の目を見ながら真っ赤になりつつ呟くと、不意に温かいものに包まれた。
晴一の香水の香りで抱き締められたことがわかる。
抱き締めたら暑いはずなのに晴一はあたしを離そうとはしない。
あたしはどうしていいかわからず、晴一に体を預けていた。


「はる…?」

「ありがとう。好き。大好き」


晴一のすごく嬉しそうな声と、微かに耳に届くバクバクした心臓の音、ちらっと見えた真っ赤な頬が愛しくなって、あたしは晴一の胸でにっこり笑うと晴一の背中にそっと手を伸ばしてぎゅっと力を込めた。


「あたしこそ…ありがとう」





青い青い空と



白い白い雲




あたしたちはやっとスタートラインに立てた






終わり

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