To Jade Curtiss


軍人、という仕事をしていると、必然的に普通の人より【死】というものを身近に感じることがある。
街を出れば魔物はもちろん盗賊に襲われる危険もあるけれど、やはり率先して死に関わるのは軍人か傭兵ぐらいなものだろう…。

亡くなった私の父も傭兵だった。
キムラスカの田舎で生まれ育ったのだと、幼い頃満天の星空の下で父の腕に抱かれ毛布にくるまれながら、寝物語に聞いた覚えがある。
記憶にある父はとても大きくて、金色の髪が太陽の光を受けて黄金色に輝くのを見るのが好きだった。
抱き上げた私を眩しそうに見つめるアイスブルーの瞳は、いつだって優しかった。

そういえば、私の髪や目の色は父譲りなのかもしれない。
マルクトで生まれ、幼い頃ダアトに移住し預言者になった母は、絹のような黒髪に深い緑の瞳だったから。
性格はどちらに似たのか分からないけれど、容姿は母に、色は父に似たことは間違いないだろう。

音素の暴走を起こし意識が混濁してしまった私はベルケンドの研究機関に収容され、結局二人の遺品らしい遺品は何一つ、私の手元に残らなかった。
亡き父と母を偲ぶものは、幼い頃のおぼろげな記憶と、鏡に映る自分の姿だけ。


けれど最近、私はふとした時に二人の優しい眼差しを思い出すことがある。
それは陛下がブウサギの名を呼んで抱き上げる時だったり、時々ダアトからやって来るサフィールが子どもの頃を思い出す横顔だったり。

それは、誰かを愛おしいと想う、優しい眼差しの中に…。
私は不意に、幼い頃に見た両親の面影を思い出す。


「少佐、何をやっているんですか?」

『あ、大佐…。』


そして、私の名前を呼ぶ大佐の微笑みに…。


結局、私は父の祖国であるキムラスカにも、母と暮らしていたダアトにも戻らなかった。
運命の糸に導かれるようにマルクト帝国へ渡り、軍士官学校で大佐と出会う。
父のような傭兵にも、母のようなオラクル騎士団の一員でもなく。
マルクト帝国という一つの国を守る軍人という道を選んだことを、亡くなった二人はどう思うだろうか…?
剣を手に、他人と自分の血を流して生きる事を望んでいなかったかもしれない。

けれど私は、この道を選んだことを後悔していない。
私には守りたい人がいて。
そのために必要な力がこの手にあるから。


『大佐』

「なんですか?」

『今日も一日、よろしくお願いします。』

「なんですか? 改まってそんな。」

『ふふっ。』



■ 風灯 ■

(人の世の儚さを知る)






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