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□優しいとき
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アスランはアークエンジェル艦内を走っていた。

「ぅ〜っ、いない…っ」

焦る。
もう時間がない。

あと、10分しかない。


アスランが艦内を走るようなことは戦闘時のような緊急のとき以外にはないことで。
だからすれ違う人はみんな驚いた顔で振り返って。
いつもキラがバタバタと走っていると注意しているマリューさんでさえ、何も言えなかったほど。

それだけアスランは焦っていた。

今日は11月29日で、今の時刻は23時50分。

アスランの大切な人の大切な日が終わろうとしているのだ。

本当はもっと早く彼におめでとうを伝えたかったのだけど。
アスランは日中ずっとエターナルで作業に追われていて、ようやく解放されて食事を終えてみればもう23時だった。

それから彼がいるはずのアークエンジェルに移動してきたのだけど、どこにも見当たらないのだ。
部屋にも、格納庫にも、ブリッジにも。
休憩室にだっていなかった。

もう今日中には会えないかもという不安に足が止まりかけたとき、展望室の大きな窓の前に長身の影を見つけた。


いた…!


「ムウさん!!」

「おう、アスラン」

最後の力を振り絞って彼のもとへ。

「どうしたんだ?こんな汗かいて」

目にかかる前髪を優しく避けてくれた大きな手を両手で掴む。

「よかった、間に合って…ムウさん、」

「ん?」


「…ちゅっ」


背伸びして、彼の頬に軽く口づけた。


「お誕生日、おめでとうございます」


一瞬驚いていたようだったけど。

「キスするとこ、違うんじゃない?」

そう放った唇が、アスランの唇に優しく触れた。

*゙。・゚*゙。・゚

「本当は、誰よりも早く言いたかったんですよ?」

「大丈夫、キスまでしてくれたのはアスランだけだから」

最後になっちゃったけど、と明かせばウインクしながらいたずらっぽく返される。

「俺だけじゃなかったら困ります」

少し拗ねたように軽く睨んで返して。
でも嬉しかったから、今度はアスランから彼の唇に触れた。

*゙。・゚*゙。・゚


ムウさん、お誕生日おめでとうございます。

貴方がいて、貴方と出会えて、貴方の大切な日に一瞬でもこうして一緒にいられて、よかった。


そして、貴方の次の誕生日も、その次の誕生日もずっとずっと先の誕生日も、できれば平和な世界で一緒に祝えることを、願っています。





おわり
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