花には水を僕には愛を
□番外編
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ep.2・5 *
委員会の日の翌朝。奏は早朝、学校の野良猫もといコーヒーに会いに学校の花壇に来ていた。
ニャーニャー
「コーヒー。にぼし」
ニャア
猫じゃらしのようににぼしでコーヒーと遊んでいる奏はいつもより機嫌がよさそうだ。可愛くじゃれてくるコーヒーに思わず笑顔になる。
ニャーニャア
「キミのお気に入りの場所は無くならないですんだみたいだね」
ニャッ
「うん、よかった」
傍から見れば猫と会話している妙な光景だがなかなか息ぴったりな一人と一匹にどこか納得もしてしまう。
ジャリ
ニャー
不意に聞こえた足音にコーヒーは素早く反応する。すると聞き覚えのある声が聞こえた。
「雪平さん」
その声に奏はゆっくりと振り向いた。するとそこに立っていたのは緑化委員長の有栖ゆき先輩だった。
「何か?」
奏は単調な声でそう問いた。
「…昨日はありがとう。おかげで後悔せずに済みました」
「お礼を言われる覚えは全くありませんが」
やさしく礼を述べる有栖先輩に奏はその言葉を突っぱねる。
「受け取ってくれなくてもいいからお礼だけ言わせて」
有栖先輩は奏の態度に気を悪くしたそぶりも見せず小さく微笑む。
「昨日はついカッとなちゃったけどちゃんと考えればわかるわ。あなたがやさしい人だって」
「……………」
「雪平さんは私がこの花壇を大切にしてたの知っていたって言ってたでしょう?だったらあの時手を挙げてくれたのは私のためだったのね。それに自分で考えろって言ったのも…自分で決めないと後悔するってこと教えてくれたのよね。…実際そうだったと思う。自分で決めてなかったら後悔していた」
そっと目を伏せながら有栖先輩は言葉をつぶやく。
「別に私が何かしたわけじゃないデス」
奏はそうきっぱりという。
「そんなことないよ!雪平さんの言葉が私のもう一回勇気を持とうと思うきっかけになったし、そのおかげで彼との誤解も解けたの!」
感謝の気持ちを伝えようと頑張っている有栖先輩に奏は彼女の眼をまっすぐ見据えて言った。
「私の言葉がきっかけというならそれはやっぱり先輩の力だったんですよ」
「へ?」
「私があの花壇を残したいと思ったのは先輩が欠かさず水くれや世話してきれいに咲いた花を見るのが好きだったから。もちろんこの子も」
ニャー
奏はしゃがんでコーヒーを抱きかかえる。
「私を動かしたのは先輩の力だから結局その勇気も先輩の力。だから感謝される必要はない」
淡々と言って述べた奏に有栖先輩はしばしポカーンとした表情になる。そしてふっと噴き出してクスクスと笑いだした。
「?」
笑いが止まらない有栖先輩に奏は不思議そうな表情になった。
「ふふ、ごめんね。昨日鳴沢くんも同じようなこと言ってて…」
「はぁ…」
「それとね、もう一つ言わなきゃいけないことがあって」
そう言うと有栖先輩は申し訳なさそうに笑った。
「私が雪平さんの優しさに気づけたのは鳴沢君のおかげなの。きっと鳴沢君に言われなかったら気がつかなかった。」
「雪平さんが教室からいなくなった後鳴沢君に言われたの……
――――……
『なによ!私の気持ちなんてわからないくせに…!』
声に怒りをあらわにする有栖先輩。
『…つーかさ、あんたの気持は誰にもわからねぇと思うぜ』
『え?』
『だってそうだろ?人の気持ちが完全に理解できる奴はいないだろ』
『………』
『それどころか俺ならこんなめんどくさい話関わりたくもないけどな』
『!』
『それなのにあいつはわざわざ関わろうとしてそれどころか助けたんだな』
『助けた…?』
『…花壇の話。話からして先輩が大切にしてるの知ってて後悔しないようにわざわざ頑張ったみたいだな。それに言い方は冷たかったけど諦めないでって伝えたかったんだろうな。自分で考えてって事は』
『私…』
『ほんと面白いな、あいつ』
『面白い?』
『色々噂があるけど周りが言うみたいに人間味がないなんてことはないな。むしろちょっとおせっかいしちまうぐらいな奴だ。マジで噂なんてくだらねぇ。本当のことは本人と話さないと分からないんだよ』
『え?』
『とゆーわけで先輩もそうすれば?まずはそれからだろ』
有栖先輩は一度目を伏せ何か考えるようなそぶりを見せてから再び顔をあげ翔吾を見た。
『……私……頑張ってみるよ』
『おう、そうすれば』
『ほんとにありがとう。私鳴沢君に言われなきゃ気付かなかったし雪平さんのこと誤解したままだった。鳴沢君のおかげだよ』
『…ちげーな』
『へ?』
『俺はきっと雪平がいなかったらここまでかかわろうとしなかった。雪平だって何にも感じない奴を助けようなんて思わないだろ。だったらあんたに雪平を動かす理由があったってこと。つまりまわり巡ってあんたの力なんじゃねぇの?』
――――……
「ちょっとカッコつけくん…」
奏がぼそっと呟く。
「え?」
「いえ…」
「でもなんかいいわね。鳴沢君あなたのことよく理解してるみたいだった」
その言葉に奏は怪訝そうに表情を変えた。
「私一昨日初めてあの人と話したんですけど…」
「そうなの?…じゃそうね。ふふふ」
何か思いついたように微笑む有栖先輩に奏は一人思案する。
「…理解…?うむ……?」
そんな奏を見て先輩はまたほほ笑むと言った。
「じゃ私そろそろ行くね」
そう言うと有栖先輩は一度手を振って校舎へと去って行った。
「先輩」
「ん?」
「よかったですね」
そう言うと奏はやさしく微笑んだ。
「ありがとう」
「鳴沢…翔吾か」
――――…
その後教室にて…。
「ふぁーぁ、はよ」
「あ、翔吾だ!はよー!」
翔吾はクラスメイトとあいさつをしながら自分の席へとまっすぐ向かった。
ガタンッ
「おはよ、ナル」
「はよ…(ナル?)」
パッと顔を横に向けるとそこにはすでに登校していた奏の顔があった。すると奏はじーっと翔吾の顔を見つめる。
「キミってストーカーだったわけか」
ちょっと引き気味にそう言う奏に翔吾は思考が停止した。
「は?…………はぁ!?!?」
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