【第3話】
私の知っている、吸血鬼といえば。ニンニクがダメで、十字架もダメで、日光に当たれない。そんな、存在だったが。
どうやらそれは、迷信だったらしい。目の前で美味しそうに焼肉弁当(ニンニク醤油味)を食べている彼は、紛れもなく、吸血鬼だから。
彼らは、普通の食事でもきちんと栄養を摂れるらしい。しかし。例えば私達が三食の食事とは別に、間食をするように。彼らも、血を欲するのだと。いつか雅治が説明してくれた。
しかし、全く血を摂取しなくても良い訳ではないそうだ。彼らの本能、細胞が。血を欲して、もしも禁断症状を起こしてしまうと。その本能のままに、無差別に人を襲いかねないらしい。それは非常に危険だ。
だから雅治は、定期的に私から血を吸う。それも酷く微量を、1週間に1度程度の頻度で。
「…さっきからなして呆けちょるん?」
「え…あ、ごめん」
「大丈夫か?貧血?」
心底心配そうな表情で。私を覗き込む琥珀色。その色の濃さに、申し訳なさが増す。彼は私が貧血を起こす事を、酷く哀しむのだ。
「ううん。…ちょっと考え事をしてたの」
「考え事?」
「や、…雅治は日光とかニンニクとか、大丈夫なんだな、って」
「、…ああ、」
なんとなく。触れてはいけない話題のような気がした。少しだけ揺れた琥珀に。歯切れの悪い返答に。どうしようもなく、戸惑いを感じた。
「ニンニクは元から平気じゃよ、あれは迷信じゃし」
「そう、なの?」
「ああ。じゃけ、日光は苦手じゃな」
「…、そっか」
それならば。彼にとってこの中庭は、非常に辛いのではないだろうか。気には留めていなかったが、テニスだって。彼の、命に関わってしまうのではないだろうか。
私の不安を感じ取ったのか。彼は、はにかむように優しく笑んで。私の頭を撫でる。
「今は大丈夫じゃよ。安心しんしゃい」
そういって私の頭に、彼の手が乗る。が。その手が少しだけ震えていた事に。私は、何も言えなかった。
To be continued.