企画モノ

□隣の駅の他校生
1ページ/2ページ

朝。通勤ラッシュよりも3本程早い電車で、私は。必ず2番目の車両の、ドアに一番近い席に座る。この場所がホームに着いた時にエスカレーターに一番近いのだ。


そして。同じように2番目の車両の、私の前に座る男の子が居る。制服から見るに、四天宝寺中学校だろうか。酷く整った中性顔、そして大人っぽい表情が印象的だった。


本来ならば。私はこの電車よりも4本は遅くても間に合うのだ。それでも、たった一度。まぐれで乗った電車で乗り合わせた彼に。私はどうやら、恋をしてしまったらしい。それ以来私は、常よりも早い電車に乗るために早起きをする。


私よりも一駅遅れて入ってくる彼に、少しでも良く見られたくて。校則のせいで化粧は出来なくても、ビューラーを使ったり、リップに拘ってみたり。髪型を毎日変化させてみたり。たとえ自己満足でも、日々の努力は欠かせなくなった。


目の前に座るからといって。何も会話があるわけではない。しかし、私があまりにも彼を見つめてしまう為か、毎朝必ずといって良いほど視線が絡み合うようになった。その度に彼は、甘く笑んでくれるのだ。

その笑顔が見たくて。彼を、見たくて。私はまた、本来よりも早い電車に乗る。




「―――…あ、」


―――それなの、に。いつものように電車に乗り込み、彼が乗る駅まで鏡をチェックしたり、リップを塗り直しながら揺られていると。

彼が座る"あの席"に。サラリーマンのおじさんが腰掛けてしまったのだ。2人掛けようの椅子に、あまりにも大胆に、隙間無く。


(嘘、でしょ…?)

思わず声を漏らして、内心慌てる。他の席にはちらほら、空席。数人が座るには、申し分ないほどだった。それでも。いつもの席が、失われてしまった。私の動揺は、思ったよりも大きかったようだ。


(お願い!降りて…っ!)


祈るように見つめてみるが、サラリーマンは動く気配がない。プシュッ、と音を立ててドアが開く。どうやら、彼が乗り込む駅についたらしい。しかし、目の前にはスーツのサラリーマン。願いは届かなかったらしい。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ