人を恋ふ。
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「此処は…、今は何年や?」
恐る恐る、といった様子で。彼は口を開いた。薄く開いた唇が、少しだけ震えている。私たちには、理解できない言動だった。
「正徳2年、ですが?」
「……!」
刹那の彼の目の見開き方といったら。信じられない事が起きたかのような、しかし嫌な予感が当たってしまったかのような、そんな苦い表情。妙な既視感を、覚えた。
「えっと…どうなされた、のですか?」
「あー…あんな、信じて貰えるか判らへんけど、」
「、はい?」
「俺多分…未来から来てん」
沈黙が部屋に降りた。知っている。私は、この風景を、景色を、状況を、言葉を知っている。
そう、例えるならば正夢を見たことがあるような。そんな既視感。なんだろう、頭が真っ白になりそうなのに、酷く高鳴っている身体。
そして、私は。この次に続く私の台詞を知っている。この張り詰めた空気を、まるで弦楽器を鳴らすかのように。弾いた。
「それは…、――素敵な事ね」
「、え」
刹那。吃驚したかのように目を見開く彼。対照的に、穏やかな私。不思議。一番驚いているのは、他でもない私のはずなのに。
「ねえ、未来にも和歌は在るかしら?」
嗚呼、どうしても私は。この高揚感を押さえきれないようだ。口元が緩く、弧を描きだす。
「和歌?…在るで」
「…貴方は、歌はお好き?」
「せや、な」
戸惑いがちに聞こえた肯定に。私の心は決まった。次に言う言葉はきっと、正解だ。不安定さを表していた彼の瞳をまっすぐに射抜く。
「ならば、これはきっと、歌神様の導きね」
***
歌神:和歌を司る神様のこと
一向に進まねえ(´・ω・`)