壹
□羽摶け大使よ、誰より高みへ
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白夜が光輝いている頃。
襖に浮んだ大きな影は最早1つの個体であるかのように、ぴたりと重なっていた。
風によって蝋燭の明かりが揺れる度、その影もゆらゆらと踊る。
もう暫くすれば朝日が顔を出す時間帯だろうか。
しかしまだまだ白夜が舞台を独り占めしている刻。
他の生ける者の大半は睡眠に耽っているはずだろう。
だから私達2人は例外らしい。
ゆったりと座った姿勢のまま、壁に背を預けていた。
ふと、隣にあった横顔を見上げてみた。
端正な顔立ちに掛かる翡翠色の髪がふわりと風に舞う。
その表情は普段の『鬼の副長』と呼ばれる彼からは想像も出来ない程にとても穏やかな物で、幸せそうにも伺える。
見つめていると、閉じられた瞳がゆっくりと開く。
「んなに見つめんな」
少しばかり照れくさそうに。けれどそれを隠すようにぶっきらぼうに放たれた言葉。
照れ隠しだと判っているからこそ、自然と微笑みが漏れてしまう。
溢れる笑みに浸っていると、唇が暖かい物で塞がれた。
視界いっぱいに広がった愛しい人を黙認して、瞳を閉じる。
唇が触れるだけ。しかし、決して軽くはないその口付けに酔いしれるように。必死に腕を彼の首に回す。
私の背中に感じる歳さんの大きな手が、離すまいと言うかのように強く抱き寄せた。
それに応えるようにしがみつく力を少し強くすればちゅっ、と小さな音を起てて唇を離された。
急に温もりを失ったそこに若干の寂しさを感じながら、歳さんを見上げた。
その表情は悪戯をした後の子供の様に破天荒で。
「笑った罰だ」
だなんて言うものだから。
面食らった私は、再び笑いが込み上げてくるのが判った。
「これじゃ、罰になりませんよ」
むしろ褒美のようです。と付け足して。
そう言えば、一瞬だけぽかんとした表情を作った歳さん。
しかしそれもすぐに自信に満ちたような。勝ち誇った顔へと変わっていく。
「…なら。もっと罰を与えなきゃな、」
刹那、また降ってくる口付けの雨。
体温を共有する感覚が、とても心地良い。
段々と部屋に入ってくる日差しが明るくなってきて、朝が来た事を悟る。
一日の初めを。愛しい人とこんな風に迎えられるだなんて。
嗚呼、なんて幸せなんだろう。
命は明日枯れるかもしれないと思えば
今という瞬間の重みを知るだろう