1号

□愛を込めてあなたへ
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私たちの国語の先生は結構気まぐれで。
しかもその気まぐれを人に押し付ける。
その日、いきなり作文の課題が出た。
お題は、『家族』だった。


私は一瞬胸がチクッとした。
音無のお父さんやお母さんは、とても親切だし優しく、時には厳しく私に接してくれる。
そんな義両親を、私は大好きだった。

でも、本当の両親ではないことを知っているから。

幼稚園や小学校で、お父さんやお母さんの絵を書きましょう。と言われたとき、音無の義両親は笑顔で

「春奈、無理に書かなくてもいいんだよ?」

と言ってくれた。

そんな優しさの傍ら、私は兄の存在が複雑で。
別々の名字で別々の家。
一般家庭と財閥の家庭。
住んでいる環境は全く違うのに、兄妹なんて。



家に帰り、勉強机に向かう。頬に手を当てふう。とため息をつく。
たかだか作文でそこまで悩まなくても。と自分自身で苦笑して、悩みに悩んだ末に、先生が発表はなしで、成績の加点にするだけの課題だ。と言っていたのを思いだしたため、兄、鬼道有人のことを書こうと決めた。

無理はしなくていい。と言われたものの、音無の義両親の作文はたくさん書いたし、それに、

お兄ちゃんだという実感がほしかった。


私は、シャープペンシルを作文の原稿用紙に走らせた。
今日、私は個別に先生に呼び出され、

「音無、作文よく書けていたぞ。」

と誉めてもらい、その日はとても機嫌よく部活へ行った。

部室へ行く途中、鞄の中からデータファイルを取り出そうとしたら、作文がヒラリヒラリと落ちてしまった。

そこにたまたま通りかかる人がいて、それはまさにお兄ちゃんだった。

「落ちたぞ。なんだこれは」
「あっ!」

と言ったときにはもう遅くて。
お兄ちゃんは私の作文を読んでいた。


『私には、名字も家も違うお兄ちゃんがいます。
普段はとってもぶっきらぼうで、ゴーグルをしてるし、部活ではマントまで着けていてなんだか怪しく見えるけど、
本当はとても優しいお兄ちゃんです。
昔、よく私が男の子にイジメられていると、お兄ちゃんは体が小さいのに、いじめっ子に立ち向かって、いつだって私を守ってくれました。
帝国学園で、私と連絡を取らなかったのも、私と一緒に暮らすために頑張っていたからです。
それを知らなかった私は、お兄ちゃんに酷いことをたくさん言ってしまいました。
お兄ちゃん、ごめんね。
私は、名字が違っても、家が違っても、お兄ちゃんはずっと私の兄妹だと思っています。
私は、サッカーがとても上手でぶっきらぼうなお兄ちゃんが大好きです。』



お兄ちゃんはふ、と笑って先を歩いて行ってしまった。
私はすぐあとを追いかけ、

「なんで笑うのよー?」
「いや、小学生の作文みたいだなと思っただけだ。」

「お兄ちゃんのいじわる。」


と、ぶっきらぼうな背中に言ってみた。











私はお兄ちゃんが大好きです。








→お礼
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