5号

□あの店の中に集まろう!
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とある休日、稲妻町商店街に店を構える雷雷軒は盛り上がっていた。
入り口には『貸し切り』の札が下げられ中を覗くことは出来ないが、外に伝わるほどの賑わいを見せている。
そんな雷雷軒にスーツ姿の青年が1人近づいてきた。
肩で揃えられた金色の髪を風にそよがせながら向かう足取りは、キリッとした顔つきとは対照的にどこか楽しげだ。
赤いのれんの前で襟を直すと、青年は雷雷軒の扉をくぐった。

「豪炎寺!」

扉を閉め切る前に名前を呼ばれ青年、豪炎寺は少し目を見開いた。
声を掛けたのはオレンジのバンダナがトレードマークの我らがキャプテン。

「すまない円堂。どうやらまた遅かったみたいだな。どうしても片づけなければいけない仕事があって」

「心配するな。まだ集合15分前だ」

そう答えたのは鬼道。
豪炎寺は腕時計で時間を確認し、店内を見回す。
たしかに時間は15分前だが、自分以外のメンバーは全員揃っている。

「みんな待ちきれなくて早めに来たようなんだ。…まあ、俺もその1人だがな」

「おまえが?…フッ、珍しいこともあるんだな」

10年前から常に冷静だった鬼道がこのテンション 、隣で笑顔を浮かべている円堂は走り回りたくて仕方がないんだろうな、と豪炎寺は思った。

「あっ、豪炎寺さん!」

そう言いながら駆け寄ってきたのは春奈。
ミニスカートにレギンス姿のカジュアルな服装に身を包んだ春奈は、手にボードと蛍光ペンを持っていた。

「よかったです、来てくれないのかと思いましたよ」

「すまない、どうしても片付けておきたい仕事があってな」

「ふふっ、冗談ですよ。それよりこれで全員ですね!木野先輩!夏未さん!冬花さーん!オッケーでーす!」

それほど広くはない店内に春奈の声がこだました。
ここにマックスがいたなら「10年経ってもやっぱり“おとなし”じゃなくて“やかまし”だよ」と嫌味の1つでも言われていたことだろう。
春奈の返事を聞いた元マネージャー3人はお互いに目配せすると、カウンターに置いてあったお盆を取り出した。
それに乗せてあったドリンクを手際良く配ると、夏未が全員が見える位置に移動する。
動くたびに丈が長いフレアスカートがふわふわとなびく。

「みなさんご機嫌よう。今日は忙しいなか集まってくれてありがとう。2名欠席だけれど、まさかこんなに出席率がいいなんて思っていなかったから少し驚いているわ」

言いながら夏未は1人1人の顔を確認するように見つめる。
円堂も夏未に倣い店内を見渡せばマネージャー4人はもちろん、FFIを予選から勝ち抜き共に戦ってきたかけがえのない仲間たちが目に映る。

「まあ細かい前置きはいらないわね。じゃあみんな、グラスの準備はよくって?」

夏未の呼びかけに全員がグラスを目の高さに掲げる。
しゃれたワイングラスに入ってはいるが、中身は烏龍茶やジュースだ。

「円堂くん、音頭をお願い」

「俺?まあいいけど…じゃあいくぞ?」

円堂の合図に静まり返る店内。
少し前まで当たり前だった懐かしい感覚だ。

「これより、イナズマジャパン結成10周年同窓会をキックオフするぞ!」

「オーッ!」


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