5号
□疑心と自信
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俺が剣城京介としてアースイレブンに潜り込んでかなりの日数が経った。
サザナーラ戦には予定通りに欠場、そのあともヤツらと不要な接触を防ぐために一通り練習が終わったあとは用がない限り部屋にいることにしている。
一番警戒が必要だと言われた松風天馬にはバレていないが、選手の女2人は違和感を感じてるみたいだからな。
だが幸いこの剣城京介ってヤツは普段から馴れ合いを好んでいなかったらしい。
おかげで黙ってても誰もその事については不審がってない。
「―剣城くん、いる?」
今日も部屋に戻りオズロックに定期報告をしていると廊下から声が掛けられた。
急いで通信を切り扉を開けると、ノックしていたのは地球人のマネージャーの女だった。
「…何か用か?」
「あのね、今日地球との電波がよくていつもより長く通信できるんだって!」
「…だから?」
「え?えっと…だから剣城くんもどうかなって思って。宇宙に来てから一度も優一さんと通信してないよね?」
優一さん?
剣城京介の関係者には間違いないんだろうが、そんなヤツデータにいない。
…だが、ここで断っても怪しまれるか。
「…そうだな、今明日の練習メニューを考えてたんだ。それが終わって時間があったら久しぶりに話してみる」
「わかった!じゃあ邪魔しないようみんなに言っておくね!」
そう楽しそうに言うと空野葵は走り去っていった。
邪魔しないようにって、コイツにとってその「優一さん」ってのはよっぽど大事なヤツなのか?
くそっ…面倒くせぇな…。
「…おい、オズロック」
『何だ』
「今の会話聴いてただろ。その“優一さん”とやらのデータを送れ」
『ほう…空野葵の提案にノってやる、ということか?』
「あいつらの性質は知ってるだろ。ここで俺が行かなかったら更に面倒なことになるのはわかりきってる」
『クククッ…それもそうだな』
タッチパネルの操作音、そこから数秒もしないうちにピリッと脳内に電気が走る。
気持ちのいい感覚じゃないがそれも3秒ほどの我慢だ。
これで俺には『優一さん』のデータが入ったことになる。
…なるほど、こいつの兄貴だったのか。
『調子にノッて正体がバレる、などということにならんようにせいぜい気を付けるんだな』
「俺を誰だと思ってやがる。どんなヤツにでも成り代われるマヌーバ・ギブツ様だぞ?」
そうだ、俺に演じられない生物などいない。
今回も完璧に剣城京介を演じてやるさ。
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