5号
□イレギュラーコーチ
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「遅かったな」
お台場シーサイドスタジアムのエントランスで、鬼道は頭を掻きながらマイペースに歩いてきた青年にそう声をかけた。
青年は携帯電話で時間を確認し、またもやマイペースにゆっくりとしまう。
「まだ集合時間の5分前じゃねえか。これで遅いってのはないんじゃねーの?」
「待ち合わせは10分前集合が基本だろう」
「…相変わらずだねぇ、鬼道クンは」
あからさまにため息をつくと青年、不動は「はいはい、今度から気を付けますよ」と心にもない返事を返す。
当然鬼道の眉間にシワが寄ったがそれ以上は追求せず、スタジアムの中へ入るよううながす。
「で?今日俺たちがコーチするのってどんなヤツらなんだ?」
「実は俺も詳しくは知らないんだ」
「は?どういうことだよ?そんな得体の知れないヤツらのコーチなんて俺はゴメンだぜ?」
不動は思わず立ち止まりいぶかしげな表情を向けた。
鬼道も立ち止まり不動を一瞥(いちべつ)したが、再び歩きながら話し出す。
「あの人の…影山総帥の指示なんだ。『シーサイドスタジアムに集まっている選手たちを不動と共にコーチをしろ』とな」
「影山さんの?…ハッ。そういうことかよ」
鬼道の背中を見ながら不動は笑みをこぼした。
あれから10年の月日が流れ、両者の間のわだかまりは解けお互いに協力するようになっていた。
協力と言うよりは一方的な命令に近いものがあるが、不動はそれでよかった。
自分でさえこんな気分になっているのだから、一番慕っていた鬼道は指示されるだけで喜んでいるんだろうな、と心の中でうなずく。
「何をしているんだ。早く行くぞ」
「へいへい」
すでに自動扉の前まで着いていた鬼道のあとを不動は駆け足で追う。
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