5号
□お土産Fare la Spese
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「静かだなぁ…」
なんて言いながらオレ、立向居勇気はキーパーグローブをはめ直す。
いつもは賑やかな宿福も今はオレ以外誰もいない。
理由はもうすぐコトアール代表リトルギガントとの試合なんだけど、あまり根を詰めるのもよくないってことで、午前中だけだけどオフをもらえたからなんだ。
マネージャーさんたちは塔子さんとリカさんをさそってフランスエリアへショッピングに行くと言っていたし、円堂さんは豪炎寺さんや壁山くんをつれて食べ歩きをするって言っていた。
『おまえもいっしょに行こうぜ!』って円堂さんにさそわれたけど、オレはそれを断って自主練することにしたんだ。
次の試合出番があるかはわからないけど、少しでも上手くなっておきたいって思ったから。
それじゃあオフの意味がないって風丸さんやヒロトさんに心配されちゃったんだけどね。
(あれは…)
階段を降りて玄関に向かったら虎丸くんの姿が見えた。
でもキョロキョロと辺りを見回していてなんだか落ち着きがない。
オレに気づいていないみたいだったからわざと大きな声で名前を呼んだ。
「虎丸くん!」
「ひゃっ…た、立向居さん!?」
よっぽど驚いたんだろう。
肩をすくませて声は裏返ってしまっている。
何だか悪いことしちゃったな…。
まあ、仕切り直して。
「どうしたんだ?どこか遊びに行かなかったの?」
「たっ…立向居さんこそ」
「オレにとって今は息抜きしてる場合じゃないからさ。時間があるなら特訓したいんだよ」
「オ、オレもそんな感じです…」
呟くように言うと虎丸くんはオレから目を逸らした。
『オレも』ってことは練習するために残ったってことだけど、服は私服だし靴だってスパイクじゃない。
ボールも何も持ってないし、とても今から練習するとは思えない格好だ。
しばらくお互いが無言になって、いっしょに特訓しようか?って訊こうかと思って口を開いたら、それより先に虎丸くんが話し出す。
「あ、あの!もしよかったら付き合ってほしいことがあるんですけど…」
「いいよ。やっぱり人が撃ったシュートの方が練習になるし」
「いや、そうじゃなくって…」
なぜかまた目を逸らす虎丸くん。
練習以外で付き合ってほしいことってなんなんだろう?
虎丸くんはだいぶ言いよどんだあと、何かを決心したような顔でオレを見上げた。
「か、買い物に行きたいんです。あの…乃々美姉ちゃんや虎ノ屋の常連さんとかにお土産買ってあげたいなって思って!」
ああ、なるほど。
買い物にさそうだけでなんでこんなに言いにくそうなのかと思ったけど、内容が内容だったからか。
一番お土産を渡したい相手をさりげなく抜かすところが虎丸くんらしいな。
「わかった。オレもそろそろ陽花戸中のみんなにお土産買わなきゃなって思ってたんだ。オレでよければ付き合うよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべた虎丸くん。
虎丸くんって普段は小6にしては大人びてるところもあるけど、こういう表情をするのを見ると年相応だなって思う。
…オレも円堂さんたちにそう思われてるのかな?
「あ、この格好じゃまずいか。ジャージに着替えてくるよ」
「はい。オレここで待ってますね」
わかったよ、と挨拶をしてオレは部屋へUターンする。
オフの時間は長くない。
急いで支度しないとな。
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