3号

□本物の証
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いつものジャパンエリアのグラウンドにヒロトは立っていた。
いつものジャージ姿で、いつもの練習の時間に。
ただいつもと違うのはみんなの様子がおかしいことだった。
せわしなく動き回り、誰か、もしくは何かを探しているようだ。

「円堂くん、何かあったの?」

しびれを切らし、ヒロトは近くを通り掛かった円堂の腕を掴んだ。
円堂は今ヒロトの存在に気付いた、と言う感じで顔を向ける。

「あのさ。おまえ、ヒロトがどこに居るか知らないか?」

「え…?」

ヒロトは円堂の問い掛けの意味が分からなかった。

「な、何言ってるのさ。オレはここに居るじゃないか」

「へ?おまえこそ何言ってるんだ?」

円堂はキョトンとした瞳でヒロトを見つめる。
別にふざけているワケでは無い。
本当にヒロトの言っている意味が分からない、と言う表情をしている。

(一体どうなってるんだ…?)

ヒロトが詳しく問いただそうとした時、

「あ、どこ行ってたんだよ!」

円堂が笑顔で大きく手を振った。
ヒロトは反射的に円堂の視線の先を辿る。

「なっ…」

目の前の光景が信じられなかった。
手を振り返しながらこちらに近付いてきたのは、紛れもなく自分。

「ありがとな!じゃあオレたち行くからさ!」

ポンとヒロトの肩を叩くと、円堂はもう一人のヒロトと一緒に歩いていった。
取り残されたヒロトは頭が混乱するばかりだ。

「…へえ。キミが“基山”ヒロトくんか」

するともう一人のヒロトが不意に立ち止まり、微笑みながら振り返った。
まるで鏡から抜け出してきたような姿に、背筋がぞくりと震える。

「驚いた。本当にそっくりなんだね」

「…ッ!まさかキミはっ…」

めまいを覚えながらもヒロトはその少年を上から下までよく眺める。
自分より明るい肌、自分より色素が濃い赤紫色の髪、そして、自分より少しだけ幼い容姿。

「そう。オレは“吉良”ヒロト。よろしく、“基山”ヒロトくん?」

そう言って吉良ヒロトは軽く会釈をした。
心臓の音が、だんだんと速くなっていく。
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