3号

□キミにありがとう
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「キレイだな…」

空はいつの間にか紫を帯び始め、赤からのグラデーションになっている。
そんな風景をオレはサッカーグラウンド脇のベンチから眺めていた。
先ほどまで雷門中サッカー部最初の11人対後から加わった11人で卒業祝いサッカーを行っていて騒がしかったグラウンドも、今は時々横切っていく車の走行音しか聞こえない。

「風丸!」

すると、正門から誰かがこちらに向かって走ってきた。
オレは立ち上がり、誰かを確認する。

「円堂?」

2、3度まばたきをして円堂を見る。
円堂は先ほど別れた時と同じ、雷門中ジャージの姿だった。

「どうしたんだ?立向居と一緒に帰ったんじゃないのか?」

不思議に思ってそう問い掛けた。
試合が終わり散々思い出話を語り合ったあと、地方から来たメンバーは地元の誰かの家に泊まると言う自然な流れに落ち着いた。
話し合いの結果、女子メンバーは木野の、男子メンバーは鬼道の家に泊まると言うことになったんだ。
だけど立向居だけは円堂と時間の許す限り話したい、と言いだした。
オレたちに止める理由は無いから、2人とはここで別れたはずだった。

「そうだけどさ、今オレんちの前で木暮や栗松たちとサッカーやってるんだよ。邪魔しちゃ悪いと思ってさ」

「なるほどな。新キャプテンたちが切磋琢磨してる中に、流石の円堂も入れないか」

オレがフッと笑みをこぼすと、円堂も白い歯を見せて笑った。
円堂がベンチに座ったのでオレも隣に座る。

「そう言う風丸は?これから陸上部の連中とお別れパーティーする、って言ってなかったか?」

「ああ。だけどまだ時間あるし、どのみち集合場所はここだから。それに…」

「それに?」

「このグラウンドともお別れだろ?最後に目に焼き付けておきたくてさ」

オレが答えると円堂はそっか、と楽しそうに答えて空を見上げた。
だけどあまりに反らしすぎたから倒れそうになって、慌てて支える。

「…3年間早かったよな。この雷門中学校に入学したのが、ついこの間のことみたいなのにさ」

しばらくして、円堂が独り言のように呟いた。
オレはああ、と相槌を打ってグラウンドを見つめる。
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