1号
□炎の災難
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(…ダメだ。これじゃいつまでたっても戻れねえ…)
回想を終了したバーンは無意味に指の骨を鳴らす。
そして深く深呼吸すると扉に手を掛けた。
「……邪魔するぜ」
自動扉が開き切る前にバーンが入って来た。
ノックも何も無しにいきなり入って来た来客に部屋の主、ガゼルは驚きを隠せない。
「…部屋を間違えてるんじゃないのか?ここはキミの部屋じゃ…」
「分かってんだよ!そうじゃなきゃ誰が好き好んでおめーの部屋なんかに来るか!」
「よかった、自分の部屋も分からなくなったのかと思ったよ」
体調を崩していても相変わらずの口調と態度に早くもこの部屋から出て行きたいと言う感情が沸き上がるが、グランとの約束もあるし、後ろめたい気持ちもあるため必死で抑え気持ちを落ち着かせる。
「それで?部屋を間違えたのではないとすれば何の用かな?」
「その…かっ体の方は大丈夫なのかよ…」
自分にとってあまりにも恥ずかしい台詞だったので頬が熱くなり、とっさに顔を背ける。
体を起こしていたガゼルは、予想外の言葉に少し目を見開いた。
「…ああ。まだ体は少しだるいが、それ以外はほとんど問題はない」
「そ、そうかよ…」
言葉とは裏腹にガゼルは力無く微笑んでいる。
顔色も白い髪に負けじと青い。
「もしかしてそれを言うためにわざわざ来てくれたのか?」
「あの練習のせいで風邪引いたって聞いて…その…心配でよ、グランに言われて仕方なく来たんだよ」
「そうか」
いつもならキミに心配されるなんて心外だ、わたしも見くびられたものだな、などと皮肉の一つでも飛んで来るのだが今日は素直に話が通ってしまう。
調子が狂う、とバーンは思った。
「すまなかったね。練習試合を予定していたのに流れてしまって」
「…仕方無えだろ。あの…あれだ、フカコーリョクってヤツだからな」
「プロミネンスのみんなにもすまなかったと伝えてくれ」
「おう…」
「…」
「…」
沈黙が流れる。
ガゼルも言葉を発しないし、バーンも聞きたかった事は聞いてしまったので他に何を喋っていいのか分からず黙ってしまった。
(空気が痛え…)
バーンはここに来た事をすぐさま後悔した。
思えばここ最近プロミネンスとダイヤモンドダストのキャプテンとしての会話しかしておらず、南雲晴矢と涼野風介としての会話は久しぶりにもほどがあった。
せっかく向こうから話を振ってくれているのに上手く拾う事が出来ない。
それがもどかしいやら情けないやらでバーンは髪をぐちゃぐちゃと掻き回した。
「じゃっ…じゃあな。オレ戻るから」
これ以上部屋にいられなくなったバーンは逃げるようにガゼルに背を向ける。