1号
□イライラの原因
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結局そのまま食堂には戻らずに昼食の時間が終わり、午後の練習のために再びグラウンドに集まっていく足音が聞こえてきた。
オレもベッドから腰を上げ入口に手を掛ける。
「不動っ!」
開ける前に勢いよく扉が開いた。
同時に大きすぎる円堂の声が耳をつんざく。
「何だ、部屋にいたのか。戻って来ないからどこ行ったのかと思ったぜ」
「おい…」
「練習にはちゃんと来いよ?監督のメニュー厳しいけどさ、やり切れば絶対力になるから!」
言いたい事だけ言って走り去っていく。
どいつもこいつも人の心の中にスパイクで踏み込みやがって。
一遍“遠慮”って言葉辞書で引いてみろ!
またイライラしながら足で乱暴に扉を閉めて廊下に出る。
そこには示し合わせたようにあいつがいた。
「チッ…」
オレもあいつも間が悪すぎだろ。
無視して通り過ぎようと思って歩く速度を速める。
ガンッ!
「なっ…!?」
何もしてないのに勝手にあいつが壁にぶつかった。
いや、ぶつかったって言うか足がもつれてもたれ掛かったって言う方が正しいか。
「おい、まさかギャグのつもりか?笑えねえけどな」
思わず皮肉っちまったけど本当は驚いた。
何も無い所で壁にぶつかるぐらいよろけるなんて普通じゃありえない。
「…ギャグか、本当だな。どうやら今日は足元が注意散漫のようだ」
あいつは力無く笑った。
すぐに歩きだしたけど2、3歩進んでまた壁にぶつかる。
「おまえ、誰が見たってやべえだろ。部屋戻った方がいいんじゃね?」
「ここ最近徹夜続きで寝不足なだけだ。それより早くグラウンドに行かなければ…」
そう言ってまた壁にぶつかる。
こいつわざとやってんのか?
周りを見渡しても廊下にはオレとこいつしかいない。
考えたくなかったが選択肢は一つしか無い。
一番やりたくなかったこの方法しか。
「ったく世話のやける野郎だな!」
腕を引っ張って肩に掛けた。
そして片方の手を腰に当てて支える。
「不動おまえ…」
「黙ってかつがれてろ」
何か言いたげだったが有無を言わさずこいつの部屋に引きずっていく。
何でオレがこんな事してやらなきゃならねえんだ…!
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