1号
□帝国学園休憩室にて
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「それで、そんな状態でどうやって初戦を突破したんです?」
「外に出ない、それこそが監督の戦略だったんだ。外に出られないと分かったオレたちは個々の部屋で練習を開始した。せまい部屋の中でこそ生きる練習がある。そのおかげでオーストラリアの『ボックスロックディフェンス』を攻略する事が出来たんだ」
「なるほど…監督はそこまで手を読んでいたと言う訳ですね」
佐久間は感嘆の声を口にする。
「だがそれは試合に勝ったから言える事だ。実際は全体での練習をしなかったものだからフォーメーションは付け焼き刃、パスは繋がらない、連携はガタガタ。なのに相手は完璧なディフェンスの布陣を敷いてオレたちのプレイを潰して来る」
そこで鬼道は一度言葉を切り、先ほど目の前にある自販機で買ったミネラルウォーターを口に含んだ。
今まで真剣に鬼道の話に耳を傾けていた佐久間はその行動を無意識に目で追う。
「だがこちらはチームメイトがどんな能力を持っているかのデータがほとんど無かった。だからゲームメークしようにも出来なかった。あんなに苛立った試合展開は初めてだ」
「……フフッ」
「…?」
先ほどまでの真剣な眼差しはどこへやら、突然佐久間が笑い出した。
鬼道は眉をしかめて佐久間を見る。
「いえ、その台詞、鬼道さんが雷門に移籍して初めて試合した時にもそう言っていたらしいじゃないですか。だから二度目ですよ」
「オレがそんな事を?覚えてないな…」
「自分が言った事なのにですか?…きっとそれを忘れるぐらい雷門での試合が熱かったんですね」
色々な感情が混ざった複雑な言葉。
何となくいたたまれなくなった鬼道は佐久間から視線を反らす。
「あ、雷門といえば不動のやつはあれからどうなりました?」
佐久間は急に表情を切り替え鬼道を見た。
それに反応して鬼道も慌てて目を合わせる。
「どう、と言うと?」
「あいつの行動です。鬼道さんや他のメンバーに嫌がらせとか、チームの雰囲気を壊すような振る舞いとかしたりしてるんじゃないですか?」
椅子についた手がかすかに震えている。
怪我も完治し以前と変わらないプレイが出来るようになったとは言え、あの時の痛みや怒りはそう簡単に拭い去れるものではない。
鬼道にはそれが十分過ぎるほど伝わっていた。
「…確かに他人に対し常に突っ掛かる態度は相変わらずだ。だが練習は真面目に参加しているし、何かを企んでいる様子も無い」
不動をかばうつもりは毛頭無い。
ただ真実を述べた方がいいと判断し、鬼道は返事を返す。